めき めきめきめき それは誰かの悲鳴のようだと静かに思った。 →【魔王の剣】 自分の産みの親である鍛冶師バルカン、彼は言った。 「お前程の名刀、必ず相応しい相手に辿り着く」 そして辿り着いたのは、まさしく身をゆだねるのにこれ以上ないくらい相応しい相手だった。アスラの鍛えあげられた肉体とそこから繰り出される剣技、そして理想を貫く強い意志。これ程の者に出会えた自分は武器として、なんと恵まれていることだろう。けれど。 「もう時間がない…」 そう、もう時間は残されていない。天上の統一は成された。まもなくあの男は創世力を用いて彼の者の悲願であり、この戦争の発端でもある天地の融合を行うだろう。 (危険な思想だ) 今や人間達の間で天上神を敬うという思想は薄れてきている。 代わりに土着の信仰が根付き、あろうことか降臨した天上神を殺害する事件まで起きてしまった。犠牲になったのは大地母神…豊穣の女神、イナンナの母だった。人間達の野蛮さを身をもって知っている、いや、人間を心から憎んでいるがために、この女神は自分を携え、単身ここまできたのだ。天地を一つにする、それを阻止するために。 アスラを、 あの男を暗殺するために。 「時間がないの…」 イナンナが震える声で呟く。それは自身を言い聞かせるような響きを持っていた。刀身を掴むその手も同様に震え、けれどもけして手放さないよう、きゅっと力を込めたのがわかった。 「デュランダル」 女神が囁く声に、刀身を淡く光らせそれに応えた。歓声があがる。 魔王の演説が終わりをつげる。デュランダルは自身を握る女の細腕にさらに力が加わるのを感じた。熱い歓声を背に、魔王がこちらへ近づく気配がする。イナンナは魔王を迎えるべく、一歩前へと踏み出す。 不意に、デュランダルの中に記憶が蘇る。 (またお前に命を救われたな) それは懐かしい記憶だ。 (お前に命があるならば恩人として、いや良き友として永らく共に覇道を歩めたろう。) なんと馬鹿な男だろうと思った。武器は道具で、人ではない。それなのにこの男は武器である我を前にして友だという。 馬鹿だ。我は道具なのに、ただの道具なのに、それなのになんとおかしな話だろう。 魔王の剣であることが誇らしいと思うだなんて。 (嬉しいことをいう…いいだろう) ズキリと痛んだのはどこだったのか。 (我は永遠に貴殿の佩剣であろうぞ) 「……一つ聞こう。初めから俺を暗殺するつもりで近づいたのか?」 それは静かな問いかけだった。男の胸を貫くはデュランダル。その柄は女の手に収まっている。ここは祭壇、重なり合う二人と一つの前には創世力が鎮座する。 女は真実を告げる。 男が僅かに震える。 「デュランダル、お前もか」 お前も俺を裏切ったのかと、信じられなかったのかと、男はまた問いかける。 「こんな結果になって残念だ。我は武具、人の道具に過ぎぬ。天を平らげるにはお前を制する以外あるまいて。」 それが事実だった。 男が絶叫する。 めき 軋む音がする。 刀身が異常な力で掴まれているのだと、気付くのが少し遅れた。 めきめき さらに軋む。その音は我が身の限界を伝えるものに過ぎない。けれどどうしてか、誰かの悲鳴のように聴こえるのだ。目の前の男か、柄を握る女か、それとも… めきめきめき 鋼がたわむ、クリスタルに亀裂が入る。この男は自分を友のようだといった。それが嬉しかった。…そう、嬉しいと思った。永遠に共にいてもいいと思えるほどに。 めきめきめきめき 我は武器、ただの物に過ぎない。けれど、もし魂があるのなら。輪廻の輪に入れるのなら。 我は(オレは) 今度こそ、 めきめきめきめき めきめきめきめき めきめきめきめき めき お前の友として、共に歩もう ■――――――――――― サイト立ち上げる前にイノセンス企画に捧げた小説。デュランダルがものが見えるかわからなかったのでそれに気をつけた気がします。文才ほしい^^ < |