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「なにしてんだよ?」

「空をね、眺めてたんだよ」


→自分に願い事を。




昼間の暑い時間は過ぎ去り、星が瞬く夜。

そろそろ寝ようかと声をかけようとしたところで、アイツの姿がみえない事に気がついた。
本に集中しすぎた。あのバカ、こんな時間にどこ行きやがったんだ?
慌てて周りを見渡せば、バルコニーにその姿があった。

いつもなら寝ろと言っても本をめくり続けているような奴なのに、珍しいこともあったものだと思う。同時に、何かあったのかとも。

「リーオ」

声を掛ければすぐさま振り返ったリーオは、ちょいちょいとオレを手招きする。
黙って隣に立つと、そのまま視線を空に戻した。

「ねぇ、知ってる?今日って異国じゃ七夕というらしいよ」

手すりに両の手で頬杖をつき、楽しそうに話す。

「"タケ"っていう木みたいに大きくなる草にね、願い事を書いた紙を吊してお祝いする日なんだって」
「ふーん…」

それと空が何か関係あるんだろうか。

「エリオットなら、何をお願いする?」
「願い事?」
「そう、願い事」

こちらを見ながら話すその顔は笑っている。

「そうだな……、お前は?」
「え?」
「だから、お前なら何を願うのかって聞いてんだよ」

一瞬きょとんとした奴は、首を少し傾ける。

「そうだなぁ、僕は…君と一緒にいられたら、それだけでいいかなぁ」
「は?」

次はこちらがきょとんとする番だった。

「そんな驚くようなことだった?まぁ、それ以外なら君の短気な性格がなおりますよーにとか」
「何を…お前だって人のこと言えねぇだろーが」
「えー?君よりはましだと思うけど」
「言ってろ」

隣で軽口をたたきながら笑うリーオは、笑っているのに、なんか、なんていうか、そう、これは…

「…そうだな、オレの願いは、お前を家族に認めさせることだな」
「……………エリオット、それ、どっかのプロポーズの言葉みたいだよ?」
「はっ!?ちがっ…そうじゃねーバカっ!なんでそうなる!!そうじゃなくてお前とオレの家族との関係をだな…」
「分かってるよ」

さっきとはまた違う調子でふっと笑ったリーオは、それでも何か、オレの心に引っかかる陰のようなものを帯びていて、

「…ありがとう、エリオット」

囁くように感謝の言葉を零した。

「――…ッ、この、バカっ!」

言うと同時に手を掴む。

「え、ちょっと…っ」

手を掴んで部屋の中に戻るとそのままオレのベッドに奴を引っ張り倒す。
ベッドの上で軽くはねたリーオにそのままベッドシーツを投げつけた。シーツをはねのけてリーオが上半身を現して怒鳴る。

「いきなり何するんだよっ?!」
「うっせぇ!!ぐだぐだぐだぐだ一人で悩みやがって!そんな顔するぐらいならさっさと寝ろ!」

負けじと怒鳴り返して、リーオのベッドに勢いよく腰掛ける。拍子に本の山が少し崩れた。

「だれもそんな顔なんて…」
「黙れ、寝ろ。命令だこのバカ!」
「バカって二回も言った…」
「何度だっていってやる、バカっ!だから、オレが寝るまでここにいてやるから、お前は寝ろ、いいな?」

黙って俯いたままシーツを握るリーオは息を吐いた。
ぼそりと呟く。

「…君ってさ、ひねくれてるよね」
「…黙って寝ろと言ったろ」
「…君はさ、」
「だから黙れと…」
「優しいね」

優しいね、ともう一度呟いてからリーオは大人しくベッドに横になった。シーツを頭まで被って、寝に入る。

…リーオは、従者になる前から時々陰のある笑い方をするような奴だった。従者になった今でも、それは変わらない。

いつか、こいつの陰を取り除いてやれるだろうか?
こいつの言う、みたくない世界を、変えることがオレに出来るだろうか。

「…おやすみ、エリオット…」

シーツの中から小さくきこえたその声。

オレの欲しかったものをくれたのはお前だから、だから、今度は…――

「おやすみ、リーオ…」



見えない誰かにするような願い事なんか、必要ない。
叶えるのはオレ自身なんだから。











■――――――――――――
七夕一日遅れ!しょうがないよ、だって書こうと思いたったのが7/7の11時だったんだもの(自分に言い訳)。そしてリーオはおそらく織り姫と彦星の話知ってて空みてたんだよ。っていう駄文ならではの補足。


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