「―〜〜ッ!だまれぇえええッこの下郎どもがぁああッ!」 教室はしん、と静まり返った。 あーあ。 →どうでもいいよ エリオットの従者となった僕は従者として彼の傍にいなくてはならない。 それはここ、貴族の名門校として名高いラトウィッジ校内においても例外ではなく、同年代であることと、貴族のなんやかんやを学んだ方がいいとのことで、エリオットと同じ生徒として入学すべく、試験を受けさせられた。 試験は問題なく通過できた、試験は。 さっきも同じことを言ったと思うのだけど、もう一度いうとここは"貴族"の名門で、僕は平民の、しかも孤児院出身だ。ナイトレイ家の従者で、平民の出。目立たない訳がなかった。 (ナイトレイ家の従者平民だってよ) (どうやって取り入ったんだか) (しかも孤児院出身だって) (みてよあの前髪。身なりもろくに整えられないのかしら…) ヒソヒソ話が教室中に満ちていた。 まぁ、当たり前の反応だとは思うし、むしろヒソヒソ話程度で済んでいるのだから、いい方なのかもしれない。四大公爵家であるナイトレイ家であるからこそ、皆、公に僕を罵ることは出来ないのだろう。聞こえてはいるけど、別に実害がないなら問題ない。 と、僕は思っているのだけど、目の前に座る人物はそうは思わないらしかった。肩がさきほどから震えている。 後ろで控えながら耳を塞ぐ準備をする。 瞬間、バンっと机をたたく音と同時に怒号が響いた。 …で、冒頭に戻る訳なんだけど、立ち上がった勢いで倒れた可哀想な椅子をちらりとみてから教室を眺める。 うん、みんな固まっている。それはそうだろう、窓が震えるほどの大音量で怒りを露わに立ち上がったエリオットの気迫には、凄まじいものがあった。怒りで口から火を吐いてもおかしくない雰囲気だ。口から火を吐くエリオットを想像、…違和感がないところが可笑しくて吹き出しそうになった。 「陰口なんぞこそこそこそこそたたきおって…!それでもこの名門校に通う貴族の端くれかっ!この大恥曝し者共が、恥を知れッ!!」 火ではなく憤怒の声を吐き出すエリオットに蹴落とされた生徒たちは、後ろめたさからか、あるいは気迫に押されてか、目をあちらこちらに落とす。もう十分だ。なお口を開こうとするエリオットを呼び止める。 「エリオット」 「なんだっ!今、こいつらの性根を叩き直して…」 「エリオット、いいからちょっとこっちきてよ」 依然として立ち上がったままのエリオットの腕を掴んで、教室の外へと向かう。 何か喚いているけれど、無視してずるずると引きずっていく。 教室から結構な距離が取れたところでその腕を離した。 「なにすんだ、リーオ!」 つり上がった眉と目のままあげる抗議の声。 「いいんだエリオット。僕は何も気にしてないから」 僕が笑ってそういえば、ますますつり上がる眉と瞳に、増える眉間のしわと浮き出る血管。 「なにいってんだ、いいわけあるか!!アイツら、お前を馬鹿にしやがったんだぞ!」 「エリオットは優しいね」 「!ばっ…、オレは優しくなんか…ってそんなこといってる場合じゃ」 「だからいいんだ」 両の手でエリオットの手をとる。温かい手、人の血が、心が通った手。 「君が僕を必要だと思ってくれているなら、僕はそれだけでいいんだ」 なにしろ僕は正式な君の従者なんだからね、と付け加えれば、エリオットは不機嫌な顔で黙り込んだ。 そして一つ盛大に溜め息を吐くと… 空いている手を僕の頭に振り落とした。ゴンッという音が響く。 「いったぁ…なにするのさ」 「…それだけでいいだと?ふざけるな!オレの従者だってんなら、自分のことも大切にしろ!いいなっ!」 両手を腰に当て、頭に手をやった僕の顔を真っ直ぐに見つめる。大切にしろといいながら暴力を振るうなんて、矛盾していると思う、痛い。 「…わかったよ」 じんじんと痛む頭をさすりつつ、しぶしぶそう返事をすれば、両手を腰に当てたまま短く鼻をフンっとならした。 そうして戻るぞ、と踵を返したその後ろ姿を、僕はみつめる。 僕は彼に必要とされるのなら、彼がここにいてさえくれるのなら、それだけで真実いいのだと思う。それは僕のためであって、つまり、彼のためだけではない。 でも彼は僕自身も大切にしろと言った。その気持ちがとても温かいと感じるのは、これで何度目だろう。 君は気がついているんだろうか? 後ろから彼を追いかける。手を振り上げて頭に落とす。ゴッ、という音と共にうずくまった人影から、くぉおおと呻き声がもれた。 「さっきのお返しだよ」 僕は上機嫌で彼の抗議の声を聞く。 君以外の声なんて、僕はどうでもいいよ。 ■―――――――――――― リーオってラトウィッジ校では異例だよなってとこから妄想したらこうなった。明るくまとめたつもりなんだけれど、ちょっとリーオが病んでるかもしれない。エリーは可愛いのもいいけど、男前なとこも好きなんです。 < |