穏やかな終わりに向けて

 土曜の午後二時五十五分、今日は恋人が来ることになっていてそのために美味しい焼き菓子を用意してそれに合うような紅茶を淹れる。
 自分で紅茶を淹れるようになってから十年ちょっと。淹れる事に対して自分なりに拘りを持つようになったのは社会人になって金銭的に余裕が生まれ、色んな茶葉を買うようになってからだ。紅茶というのは茶葉やその分量によって蒸す時間も違うと知ってからは、人に出す前に淹れたやつを自分で試してから出すようになった。
(三時の約束だから丁度良いかなぁ)
 砂時計じゃなくてキッチンタイマーのスイッチを入れ少しだけぼんやりとする。三分という時間は少しだけ中途半端な気がするから、本を読んだりスマホを弄ろうという気分になれないから恋人の事を考える。
 これから来る彼と話すのは別れ話だ。三年以上も付き合っているのに許せない部分があって、けれどもそれはお互いにある部分で。何度も話し合って修復をしては新たに問題が発生しての繰り返しに私も彼も疲れてしまったのだ。
 問題、それは彼の言葉選びや私の物の考え方。時には不必要に関わってくる第三者もいて――そういうのが積み重なると幾ら好きでも感情はだんだんと薄れていき嫌いになるよりもどうでも良いとなり無関心に変わってしまう。
それは嫌いになるよりも怖い事で、だから私達は最後くらいは穏やかに過ごしてさよならをしようという事になった。
(好きなのになぁ……)
 好きなら信じろと、好きなら諦めるななんて言える人達はきっと幸せなんだろうなと思う。ううん、幸せというか何も知らないし分かりようがないから言える事なんだろう。

 キッチンタイマーの鳴る音がし意識をティーポットに向けつつそれを止め、ポットの蓋を開けて中からお茶パックを取り出し三角コーナーにそれを処分する。
 この好きという感情は出涸らしみたいなものなんだろうか、それとも好き故に妥協とかしたくない故の好きなんだろうか。
 そんな事を思いつつポットに蓋をしお菓子が盛られた皿とカップと共にトレイに乗せリビングにあるテーブルに置く。
 そうしてインターフォンの音が聞こえれば私は彼を出迎えるために一度だけ笑顔を作るのだった。



2019.8.19
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