白昼夢

 夏の暑さはどこか狂気めいていて、ああこの季節はどうにもなぁと思ってしまう。
 思ってしまうが故に気分はどうにもへこみやすく、そこへきて暑さに神経をすり減らされる気がしてならない。
 夏の空や海は好きなくせに夏という季節に対してはどうにも親しみを覚えられないままでいる。
 開放的な季節と言われているのに何処か狭さを感じてしまいながら田舎道を歩く。
 田舎だから狭さを感じるのか、けれども都会だとビルが邪魔をして――と考えるもああいう地域には夏相応の娯楽があるななんて考え直す。
 多分田舎だからとか都会だからとか考えている内はまだまだなのかもしれない。

(嫌になる暑さだ……)
 頬を伝う汗を腕で拭いながら小さく息を吐いて、そして鞄からペットボトルを取り出し蓋を外して中身を一口飲む。
 そして蓋を閉めて鞄にしまえば、今年の夏はスポーツドリンクをよく飲むようになったななんて思った。
 この暑い中を何故歩いているのか、それは自分でもよく分からない。
 なんとなく散歩したい気分だったのだろうか、それとも夏の暑さの狂気に飲み込まれたい気がしたからなのか。
 どちらにせよ馬鹿な事をしている気がするというか、しているのだろう。

「会いたいなぁ」
 雲一つない空を眺めぽつりと呟く。
 誰も来ていないというのに玄関の開く音がはっきりと聞こえたあの日、僕は少しだけ泣きたい気持ちになった。
 それは感傷でもあり懐かしむ気持ちからだろう。
 夏の狂気的な暑さの中で少しだけ白昼夢を見たい、そう思った。



2018.8.18
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