十六歳の夏

 真っ青な空の下を歩く彼女の背中を見つめる。
 その姿はどこか寂しそうで、けれども自分の意志で立っている人間という印象を受けた。
「空、綺麗だね」
 蝉の鳴き声に混じって聞こえる優しい声に私は「そうだね」と言葉にする。
 隣を歩いていないから頷いても彼女には分からないからだ。
 田舎特有の田圃道は日陰になる物なんて一切無くて、地面に映る影は私と彼女、そして電信柱だけだ。
「このままどこかに行っちゃいたい」
 十六歳の夏、私は彼女のその言葉にどう返そうか少し悩む。
 もう十六歳、だけどまだ十六歳、そんな私達はどこに行けるんだろうなんて考えてしまったからだ。
「ユウはここが嫌いなの?」
 少し考えてからそれを声にしてみて反応を伺うと、彼女は立ち止まって振り返ったから私も立ち止まる。
「嫌いとかじゃないよ、そういう問題じゃないの」
 ただ遠くに行きたいだけ、その言葉に何も言えない自分が嫌で、それと同時に流れる汗で張り付く髪の毛が鬱陶しく感じられた。

 風が吹いてもそれは熱いだけで全然涼しくなくて、ああもう嫌だなって思って、それと同時にユウに触りたくなった。
 暑いのに他人──自分以外の体温をというよりも彼女自身に触れたくてどうしようもなくなった。
「ねぇ、手を繋ぎたいんだけど」
「繋いでいいよ、キミがそう望むならね」
「じゃあ繋ぐ」
 そう望むならね、その言葉になんだか突き放されたような気もするけれど繋げるならそれでもいいと思って彼女の隣に立って右手をぎゅっと握った。
 そして視線を向けるとユウは小さく微笑んで「さ、歩こうか」と言って右足を動かすから私も歩き出す。
「暑いねぇ」
「そうだねぇ」
「このまま、手を繋いだままどこかに行っちゃいたい」
 さっきとは違うその言葉に私は泣きたい気持ちに襲われる。
 ユウが望むならそうするよ、そう気軽に言えたらいいのに言えないのは私にそんな力がないからだ。

「……アヤ、汗」
「ん……」
 空いている方の手で私の頬に触れて、その掌で彼女は汗を拭う。
 それは涙を拭ってくれているように感じられて、思わず彼女にキスをしたくなった。
 でもそれはできない、してはいけないのは分かっている。
「アヤ、好きだよ」
「……私もユウが好き」
 こんな時だけしか手を繋げない、そんな私達の夏はあと何回続くのだろう。
 十六歳の私達のどこにもいけないこの気持ちは、思春期の勘違いで終わるのだろうか。
 それともずっと続くのか、それは分からないまま私達は照りつける太陽の下を散歩する。



2018.7.17
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