嘘と笑顔

 またアイツは内包しているなと、あの横顔を見てそう感じた。
 何かを言葉にしたくてもできない時とか、言っても無駄だなという時のそれに気付くようになったのはいつからだったか。
 多分それが分かる程度にはアイツの事を見ているんだろうなと思ったら、俺はアイツの事をどう思っているのか考えそうになる。
 内包しているその姿を放っておけないのか、それとも恋愛感情なのか、言葉にする事ができない同情からきているのか。
 自分でも分からないそのどれかを分析してみたいと思いつつも、分析をしたらきっと俺は自分のそれを意識してアイツに接するだろう。
 そうなるとアイツは俺の事を今までとは違う目で見るかもしれない。
 それが良い意味ならいいけれど悪い意味じゃあ最悪だから分析をするのは止めている。

(嫌われたくない程度の何かは持っている)
 そんな言葉が浮かびつつある最近、あの横顔を楽にする事はできないけれどせめて気がまぎれるようにと思いブラックの缶コーヒーを片手にアイツに近寄って声をかける。
「七瀬、コーヒー奢っちゃるわ」
「お礼は何が良いの?」
「見返りは求めてねーよ、自販機で買ったら当たってな」
 嘘です、当たってなんかいません、只単にお前に差し入れするために買ったんですなんて内心呟く。
 こういう時に当たり機能のある自販機が会社の休憩フロアにあって良かったと思える。

「……それは奢りと言うの?」
「ブラックって気分じゃねぇのに間違えて買っちまったんだよ。七瀬、ブラック好きだろ?」
 ほら、と差し出すと七瀬は俺とそれに視線を向けてから笑みを浮かべる。
「じゃあ御馳走になろうかな」
「おう、飲め」
 こうやって会話をするために買われた缶コーヒーと嘘は何度目だろうか。
 困らせない程度の嘘を吐くけれど、これがバレたらどうなる事やら。
 そう思いながら俺は自分の本当の気持ちを内包しつつ、コイツの笑顔を見たいなと思うのだった。



2018.6.4
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