「スカーレット様。ラクサス様がお見えです」
「わかった。今行く」

昼から入念に準備をして、出迎える用意をしていたエルザはすぐに応接間に向かう。

「よお。エルザ。用意はできたか」
「まあな。結果は保障しないが」

気安くエルザに声をかける男の名はラクサス。この町で評判の小物問屋の若旦那だ。
エルザとはナツ・グレイ同様幼少時の習い事で知り合った友人でおり、店を継いだ後は仕事の際によく遊郭を利用してくれるお得意さんでもある。

「大丈夫だろ。スカーレット″を一目見てみたいと言ったのはあいつだからな」
「ん…?商談相手とは知り合いなのか?」
「仕事で一回あったら、結構気が合ってな…とは言っても仕事と私生活は全く別だ。今日はあくまで商談相手として扱うぞ」
「了解だ。料理を運ぶタイミングはどうする?」
「相手が腹が減ってそうなら、すぐに運び込んでもいいんだがな」
「一応、ミラには私が合図するまで、運ぶのは待ってもらうように頼んでいる」
「とりあえず、相手に今食べたいかどうか聞いてみてからにするぞ…それはともかく、エルザ、今日の着物と簪はそれでいいのか?」
「いろいろ悩んだんだが、今までとは少し違う感じにした方がいいかと思って」

今、エルザが着ているのは、綺麗な青い布地に大ぶりの花がいくつも描かれた着物。
それにラクサスからもらった帯留めと簪をつけている。

「花魁道中と比べれば地味に見えるが、大丈夫か?」
「花魁道中と違うから意味があるんだ」
「どういうことだ?」
「花魁道中に使う着物や小物は確かにこれより、ずっと派手だろう。それは人目につくようにして、不特定多数に私が着ているものが売れるようになることを狙っているからだ」
「ああ。それで?」
「今回は不特定多数じゃなく、その相手にだけ、興味を持ってもらえばいい」
「その格好が興味をひくものなのか?」
「ああ」
「おまえが、そんなに自信満々なら、大丈夫だな…お、来たぞ。あいつだ」

その言葉に、エルザはすぐさま花魁用の表情に切り替え、ラクサスが指す方に向き直る。

「お初にお目にかかります。スカーレットでございます」
「………初めまして」

深々とお辞儀をするエルザに一瞬遅れて返事を返したのは、空色の髪と顔に入れ墨をもつ青年だった。

「ジェラール。早かったな」

ラクサスが朗らかに声をかけるのに対し、ジェラールと呼ばれた青年はエルザから視線を逸らさない。

「ちょっと、用事が早く済んでな…こちらが町で評判の――」
「ああ。この遊郭で評判の花魁、スカーレットだ」
「噂に違わず美しい。お会いできて光栄です」
「…いえ。こちらこそ」

差し出された手を握り返すが、エルザはどことなく違和感を覚える。言葉は丁寧だが、どことなく作られたような笑顔に眼差しーーなんだか落ち着かなかった。

「ジェラール。もう飯は済ませたか?」
「いや、実は昼もろくに食べてない」
「じゃあ、部屋で食事をしながら、話をしないか?」
「そうだな…ここの飯はおいしいのか?」
「うまいぞ…なあ、スカーレット」
「ええ。ここの料理長が腕によりをかけてお作りいたしました。きっとお口に合うと思います」
「そうか。それは楽しみだ」

目の前の男が放つ言葉が酷く無機質に聞こえた。エルザは胸中に広がる違和感を無理やり打消し、笑顔を作る。

「それでは立ち話もなんですし、そろそろお部屋の方へ・・・」

エルザが二人を促し、部屋の方へ案内する。
部屋へ向かう途中で厨房から出て、こちらを伺うミラジェーンが見えたため、こっそり合図を送り、料理をすぐ出すように伝えた。

「ジェラール様、ラクサス様、こちらが今晩の献立となります」
「ああ。ありがとう」

部屋につくと、エルザはひとまず献立表を渡す。

「スカーレット。酒はいいのはあるか?」
「はい。お食事に合うように準備をしております。食事の前に冷酒はいかがでしょうか?」
「もらおう」

献立表に視線を落としていたジェラールが顔を上げ、返事をする。
エルザは先ほどの違和感をなるべく気にしないように頭の隅に追いやり、酒を注ぐ。

「ところで、失礼だが、今日の着物はいつもの花魁道中と比べて些か地味であると見受けられるが…」
「ええ…しかし、この着物はすべて、隣国から輸入した糸、この簪も他国から輸入した金属と鉱物でできております」
「……!そうなのか。よくできているな。それに似合っている。とても綺麗だ」
「お褒めにあずかり、光栄です」

その時、襖をこんこんと叩く音がして、料理が運びこまれた。







前ページへ/次ページへ

戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -