「ナツ!何でここに!?」
「何でって…見回りだよ」

ナツは特徴的な桜色の髪を揺らしながら答える。

「見回りって…ああ、そうか。親の仕事手伝い始めたんだよな」

ナツの父親は町の役人だ。治安維持なども仕事の一つであるため、町の巡回も定期的に行っている。

「1人か?通常は2人1組のはず…」
「いや、変態露出魔と一緒だ」
「誰が変態露出魔だ!」

後ろから男の怒鳴り声が聞こえて、エルザが振り返ると、黒髪の男が呆れた表情をして立っている。

「おい。てめえ、仕事サボってどこのお嬢さんナンパしてんだ…ってエルザ?」
「……おまえら2人そろって同じ反応だな」
「いや、だってカツラなんか被ってるから」

黒髪の男――グレイが頬をかきながら、答える。グレイもナツと同様役人の息子で父の仕事を引き継ぐ予定だ。

「ん?そういえば、おまえらか?私の後をついてきたのは?」
「?何の話だ?俺ら、今おまえと会ったばかりじゃねえか」
「実は――」

エルザが2人にルーシィと変装して遊びに行き、その帰り道で誰かに尾行されていたことを話す。

「マジかよ。この辺も物騒になったな」
「誰か不審な奴は見てないか?」
「誰も見てねえな」
「俺も見てねえ。町の人間とは何人かすれ違ったけどな」
「そいつらの中に犯人いるんじゃねえか」
「でもすれ違った奴らは、町の名士みたいな連中だぞ。町娘わざわざ尾けたりするか?」
「花魁のスカーレットを尾けるならあり得るだろ」
「だったら、普通に店行くだろ。その方が確実に会えるわけだしな」

結局、誰が尾けたのかということは謎のまま、念のため遊郭まで2人に送ってもらうこととなった。







遊郭の前までつくと、すぐに女将が迎えに来る。

「エルザ!まったく、こんな時間まで何してるんだい!」
「すみません。ちょっと話し込んでしまって」
「ほんとに、もうーーん?ナツとグレイか。エルザと一緒だったのかい?」
「いえ、すぐそこで会ったので。最近は物騒なので送ってきたんですよ」
「そうだね。やっぱり、外に行くときはお目付け役兼護衛でもつけようかね」
「…次からは早めに戻ります」

エルザはそう言うと、ナツとグレイに礼を言い、屋敷の中に入った。

「明日は忙しくなるからね。今日は早めに休むんだよ」
「はい」

エルザは頭の中で明日の予定を思い浮かべる。明日は小物問屋の若旦那が接待で予約を入れている。何でもこの町一番の豪商との商談らしい。
もともと、大きな商家ではあったが、息子が相当の切れ者らしく、代替わりをしてから、さらに大きくなり、今ではこの町一番の商家だ。

その息子は確か、海外からの輸入品などでも利益を上げており、小物問屋としても、それらの品物を押さえておきたいということで、この遊郭でそれらの商談を行う。

遊郭で商談を行うというと、異質に聞こえるかもしれないが、そうでもない。
最高峰の遊廓と人気ナンバーワンの花魁の組み合わせは、財力のあるものの自尊心をくすぐるらしい。
そういう事情でここでの商談は結構頻繁に行われていた。

それ以外にも理由はある。エルザは花魁道中の際に、呉服屋や小物問屋から贈られた品物を身に着けて町を歩く。
その広告塔である、エルザを実際に見て、判定してもらおうという魂胆だ。

何はともあれ、この商談ではエルザも尽力するという約束のため、準備のために早めに床につく。

そして、翌日早朝。

「ミラ。準備はどうだ?」
「ばっちりよ」

炊事場に入ったエルザは料理長のミラジェーンに声をかける。
ミラジェーンは振り返り、にっこりと笑いながら答えた。

「とはいえ、苦労したわよ。小物問屋の若旦那――ラクサスは馴染みだからいいけど、商家の若旦那の方はまったく知らないし」
「そうだな。私もそこだけが懸念材料なのだが」
「まあ、昔の伝手も頼って、好きな料理の情報も集めたから多分大丈夫よ」
「ありがとう」

ミラジェーンの経歴は一風変わっている。昔はこの町一番の芸妓だった。
めきめきと頭角を現したミラジェーンは数年かけ借金を返済した後、なぜかこの遊郭の総料理長となったのだ。

その理由を聞くと、なんだかんだではぐらかされて聞けていない。そのうち、何となく聞いてはいけないような気がして、それっきりだ。
まあ、ミラジェーンが来てから客に振る舞われる食事も遊女の食事もグレードアップしたので、みんな喜んではいるのだが。

「じゃあ、打ち合わせ通りにね。料理を運んだ方がいいタイミングになったら、合図をちょうだい」

ミラジェーンが壁に備え付けの連絡用筒を指さしながら話す。

「ああ。わかった。私もいろいろ準備があるから、またな」
「大変ね。頑張って」

エルザはそういうと、自室へ戻り、夜に備えて準備を始めた。






前ページへ/次ページへ

戻る

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -