ギルドを出たルーシィは数日分の食料を買い込んで自宅に戻る。

(あ〜あ…あたし何でこんなにイライラしてるんだろう…)

あの記事を読んでから、なぜか胸にもやもやとした霧がかかっているような気がする。
気分を落ち着かせるために、湯船に湯を張り、入浴することにした。

お湯に体を浸からせると、背伸びをする。疲れた体にお湯の温かさが染み入るようだ。

(本当にあたし何でこんなにイライラしちゃってるんだろう)

あの記事を読んでからなのだから、普通に考えれば嫉妬なのだろうが、どうにも腑に落ちない。

記事に書かれたナツの行動はどれも内面を指すものばかり。
外見で票を集めたならば、「見た目ばっかり!」と憤慨するのもわかるが、評価されてるのは、中身なのだ。

(ナツが他の娘に親切にしたのが気に入らない…?)

いや、それも違うだろう。そもそも、あの状況にあれば、そうするのは人として当然といえば当然。
平然と見捨てた方が、ルーシィとて幻滅したに違いない。

(だったら、一体どうして…)

「あ〜っ!何でこんなことで、一々悩まないといけないのよ〜!」

ルーシィの絶叫がバスルームにこだました。

「もうやめっ!考えるのやめっ!せっかくのリラックスタイムなんだから!」

ルーシィはもやもやを払いのけるように言うと、勢いよく湯船からあがり、体を洗い始めた。

「ふう〜。いいお湯だった〜」

なんとか雑誌のことを考えないようにしてお風呂からあがったルーシィは着替えると髪を乾かす。

鏡の前で最後に丁寧にブラッシングをして、顔に入念に化粧水をはたきながら、ふとあることを思い出す。

(…あいつら、パターン的にそろそろ来そうなのよね)

「っていっても、今日の朝クエストに行ったらしいから、明日かな〜」

ナツとハッピーがクエストに早朝から出かけたことを聞いていたため、思い直す。
独り言を言いながらリビングに繋がるドアを開けるとそこには――。

「よっ!邪魔してるぞ!」
「あいっ!」
「今日なんかい!!」

リビングの椅子にでん!と座りながら魚を焼いて食べているナツとハッピーの姿に、ルーシィはいつものように思わず突っ込みを入れた。

「っていうか魚臭いでしょ!換気くらいして!」

言いながらルーシィは窓を開け、魚の焼ける匂いを外に逃がす。

「ほら、ルーシィお土産」
「あら。珍しいわね」

ナツが差し出してきたのは今まさに食べているであろう魚。

「今日の依頼が港町でよ。依頼料と別にたくさんもらったんだ。だから、ルーシィに持ってきた」
「そ、そう。ありがと」

お土産が生魚というのはともかく、わざわざルーシィに持ってきてくれたのは悪い気はしない。

「ああ。これで当分、ハッピーの食事は大丈夫だな」
「あい。ここにストックしておけば大丈夫だよね」
「あんたが食べる気!?っていうか、あたしの家は食料置き場か!」
「ルーシィも食べてもいいよ。おいらの分も残しておいてくれるなら」
「…一瞬でも嬉しいと思ったあたしが馬鹿だった」

ルーシィが溜息をつくとナツが話しかけてくる。

「ルーシィ。飯は?」
「今、口にくわえてるでしょ」
「いや、これは食前の腹ごしらえだ」
「言ってることおかしいんですけど!」
「肉が食いたい」
「おいらも肉もちゃんと食べれるよ」
「何!?あたしが肉料理作るのは前提なの!!」

怒鳴りながらもルーシィは食事の支度に取り掛かる。

「飲み物はオレンジジュースでいい?」
「ああ」
「あい」

オレンジジュースを二人にだすと、すぐにキッチンに戻り、冷蔵庫から野菜と鍋を取り出す。
鍋の方を火にかけ、野菜はざるで水洗いし、手早く刻み始めた。

刻んだ野菜を大きい皿に写し、ドレッシングの小瓶ととりわけ用の小皿、菜箸と一緒にリビングに持っていく。

「はい、ドレッシングは好みでかけてね」
「え〜。野菜かよ」
「文句言わない!野菜を先に食べた方が消化にいいのよ!」
「そうだよ、ナツ。ルーシィママの言うとおりにしようよ」
「誰がルーシィママだ!」





☆★☆★☆

「ルーシィ。肉は?」
「もうちょっと待ってて」

ルーシィはナツに言い残しキッチンに戻る。鍋をかき回すと湯気が立ち上った。

もう少し温めることにし、ルーシィはバゲットを取り出す。薄くスライスし、バターで軽く両面を焼く。
その作業を終えたころには鍋の中身もちょうど食べごろになっていた。

皿を三つ用意し、バゲットを入れた大皿と一緒にお盆にのせ、リビングまで運ぶ。

「ほら、今日のメインディッシュ。ビーフシチューよ」
「おおっ!うまそう!」
「いいにおい〜」

ルーシィが作っていたのはビーフシチュー。昨日から作っておいた力作だ。
ナツが来るのは明日だと思っていたため、本当は3日くらい寝かせると食べごろになるようにしてしまったのだが、今日食べても問題はないだろう。

「はい。どうぞ」

ルーシィが皿を置くと同時にナツとハッピーは即座にスプーンを持ち、シチューを口に運ぶ。
それをルーシィはいささか緊張した様子で見た。ナツたちのために、用意したメニュー…だが、はたして口に合うかどうか。
そして――。



「うまーっ!」
「肉が柔らけえー!」
「でしょ」

がつがつとシチューを食べ進めるナツとハッピーの姿にルーシィはふふんと自慢げな様子になる。

本で見たり、ミラジェーンに作り方を聞いたり、苦心して作った料理。
おいしいと褒められるとやっぱり嬉しい。








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