ルーシィが両手で顔を覆う。
小さな声でもナツには聞こえるはずだからと心の中で頷き、囁くような声量で口を開いた。
「そ、そうよ。…あたしずっと前からナツが好きで、構って欲しくて――」
「やっぱなっ!オレすげえだろ?なっ、ハッピー……ん?」
「……あい?」
「今、なんつった?…ルーシィがオレを、好き?」
「オイラ、聞こえなかったー」
ナツは自分の言葉に驚いたのか、先程のやり取りを声に出して繰り返していた。そのせいで相棒の肩に乗ったハッピーにも伝わり、面白そうに笑っている。
ルーシィはその顔が指の間から見えて、内心戸惑った。
ナツが頬を掻きながら立ち上がって、彼女の元へ近付いて行く。ハッピーが翼を広げて離れた。
彼はマフラーの端を握って一度目を伏せるが――すぐに笑顔を向ける。
「ルーシィ…オレも、「なーんてね!」」
「へっ?」
「なあに?アンタ今なんか言った?」
ルーシィの高い声がナツの声に重なった。
彼女が隠していた顔を見せたと同時に二人の視線がぶつかる。ナツの両目が吊り上がった。
ハッピーの行動が気になっていたルーシィは、ナツの言葉が耳に入っておらず小首を傾げている。
「…いあ、言ってねえよ。ハッピー帰るぞ」
「ちょ、ナツ?」
不貞腐れたナツは背を向けて窓から出て行く。彼は着地して相棒を待つが、
「えー、オイラは泊まってく」
「泊まるの!?」
ハッピーが言い出すと必ずと言って良いほどナツも泊まっていくのだ。
しかし――、
「…わかった、んじゃな」
「え…」
マフラーを翻して走り出したナツ。拍子抜けしたルーシィは固まっている。
ハッピーは動こうとしない彼女をチラリと見てから窓を閉めた。
ようやく動き出したルーシィはキッチンへ向かった。
その後を追うハッピーはエプロンをかけて食器を洗い始めた彼女のお手伝いをしようとして、お皿を受け取って片付けていく。
それを何度か繰り返してからルーシィに問いかけた。
「ねえ、ルーシィ?」
「なあに?」
「本当はナツのこと好きなんでしょ?」
「…っ!?」
動揺を隠せずに手が滑って泡の付いたお皿を落としそうになった。慌てて「違うわ」と否定するが、
「ナツはだませてもオイラにはわかるよ!」
「ハッピー…」
ジーっと見つめてくる青い猫の瞳が真剣で、目を逸らせなかった。
「ナツのことが好きだって気づいたのは最近なの。…でも、アイツの困った顔を見るのが怖いのよ」
ハッピー自身も恋をしているからか、そういう面では鋭い。ここで誤魔化しきれないと思い、ルーシィは素直に打ち明けた。
ふぅと息を吐き出したハッピーが、口を開く。
「…さっき、ナツ困ってたかな」
「え?」
「嬉しそうな顔してたように見えたよ、オイラ!」
オイラに教えてくれたように素直に言わないと伝わらないよ、ナツだもんと言われてしまう。
恋愛面では先輩になるからか、腰に前足を当てて、自信満々だ。
その夜、ハッピーの言葉が引っ掛かり、なかなか眠れずにいた。
寝返ると、青い尻尾が頬に当たる。気持ち良さそうに眠る子猫の寝顔に癒されながらも、ルーシィは深い溜め息を吐いた。
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