駅の方へ向かったナツと入れ違いに、彼の相棒が翼を羽ばたかせて飛んできた。
ルーシィの左肩に降りる。

「ナツは?」
「…うん、ちょっとね」
「ルーシィ?」

小首を傾げているハッピーから視線を外して、クスッと笑った彼女は自宅へ足を向けた。



☆☆★☆☆


洗濯物を畳んでいると、ベッドの上で丸くなって眠る青い猫の耳がピクピクと動いていた。
ルーシィは畳んだタオル類をしまおうとして、洗面所の方へ移動する。彼女の額から汗が流れた。

「なんか暑いわね…」

勢いよく窓が開けられた音が耳に届き、開けたその人が部屋に踏み込んできた途端、熱風が吹き荒れる。

「ルーシィっ!おまえ、まただましたなー!!」
「ナツ!どこ行ってたのさ……って、どうしたのそのリボン!?…グフフ」

ベッドから降りたハッピーが、桜色の頭に指を差して笑った。相棒を睨んだナツはリボンを掴むと、

「…これ、耐火性だろ?燃えねえし、外れねえんだよ!どうなってんだ!?」
「そのままでも良いのに…」

ナツの背後から、ルーシィが投げ掛けた。続けて「可愛いわよねー」と口にしてハッピーの傍に寄る彼女は微笑む。

「くっそ…ウソ言いやがって!」
「やっだあ…アンタ、あんなの本気にしたの?」
「なんだと!?」
「バカね、考えたらわかるじゃない!」
「…ぅ」
「ナツの負けです、あい!」

ハッピーが尻尾を揺らしてルーシィの肩に乗ると「まただまされたんだ、ナツ」と言いながら口元に前足を当てた。
不機嫌な表情を見せてドカッとソファに座りこんだナツは、両腕を組んで何やら考え込んでいる。
彼に近付き、赤いリボンを解こうとしてルーシィが口を開いた。

「…このリボンは特殊でね。結び方によっては外せない仕組みになってるのよ…高かったんだから」
「…なんでそんな高ぇの買ったんだよ?」
「そ、それは…別にいいでしょ!気に入ったんだもん」

スルリとリボンがナツから離れていく。
縛っていた箇所の髪に跡が付いてしまったため、そこを撫でていると見上げてきたナツと目が合った。

「…おまえ、オレ以外の奴はだまさねえのに、オレばっかだましてるよな!?」
「なっ、なによ!アンタだっていつもあたしだけに悪戯してくるじゃないのよ!それにこれも修業の一つじゃないかしら?アンタいつも突っ走るんだもの…少しは考えなさいよね!」

目を逸らして言い放つルーシィ。しかし、彼女の声は耳に届かず彼は背を向けて、また何か考えているように見えた。
ルーシィの肩に乗っていたハッピーは、今度はナツの頭に飛び乗る。

「ナツ?何考えてるのさ?」

相棒の言葉にも耳を貸さない彼の背に視線を向けて、彼女が溜め息を吐いた。
リボンを机の引き出しに入れて、キッチンの方へ足を向けると――

「わかったぞ!」
「え?」

突然声を張り上げて振り向くナツを凝視して、ルーシィは身構えた。

「ルーシィ、…さてはおまえ、オレのことが好きなんじゃねえのか?」
「…はい!?」
「ガキの頃だったか…好きな奴こそいじめたくなるって聞いたぞ!」

ナツの頭から離れてふわりと空中を飛んだハッピーが、ルーシィの足元に降りた。そして、彼女を見上げている。

「…なによ、ハッピー?」


――そんな目で見ないで。


ここで狼狽えたら…、本当の気持ちを悟られる?
この時のあたしは、『だったら、ナツだって同じじゃないのよー』と言い返せないでいた。

そのことに気付いたのは、彼の相棒――だけであった。






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