――今までのようにだまされる側はごめんだわ!今度こそ、アイツを懲らしめてやるんだから。
でも、まさかナツにあんなこと言われるなんて思わなかったんだ。
あたし、どうしたらいいの?
☆☆★☆☆
最近のあたしは、一日に一回ウソをつく。
もちろん、だましのターゲットは“ナツ・ドラグニル”
現在の時刻、16時30分――
他愛のない話で盛り上がっているナツとルーシィ。二人の笑い声が聞こえていたかと思うと、今度はルーシィの怒鳴り声に変わる。
「ナツのばかー!!」
「ホント面白ぇよなー」
「もう、……」
目の前に置いてあるカップの中身を飲み終えると時間を気にしているのか、ルーシィは時計をチラリと見た。
「どうした?」
「へ?…なんでもないわよ」
鞄の中にあるものを確認してから、また時計を見る。その仕草に気付いたナツが口を開いた。
「…時間気になるのか?」
「え!?…なんで?」
「いあ、時計見てたから…」
「あ…うん、ちょっとね」
視線を逸らすルーシィの横でナツは疑問符を浮かべていたが、それ以上聞き返さず欠伸をしていた。
二人の側で魚を頬張っているナツの相棒、ハッピーが口の中のものを急いで飲み込んだ後「シャルルに渡したいものがあったんだ」と叫ぶと、ウェンディの隣に座っている愛しの彼女の元へ飛び立って行った。
「…ハッピー嬉しそうね」
「ん?おう、そうだな」
少女と二匹の笑い声が耳に届いてくる。時計の針は――16時45分を回った。
「あたし、帰るわね」
ルーシィが席を立ち、鞄を肩に掛けていると、
「早ぇな、もう帰んのか」
「うん」
「…んじゃ、オレ達も。ハッピー帰るぞ!」
「あいさー!」
青い猫が前足を振り、相棒に答えた。すると、ガジルと一緒に仕事から戻ってきたリリーに声を掛けられる。
「ナツー、先に帰って良いよ!オイラ、後から行くー」
「おう!ルーシィんとこ、いっからな!」
「あい!」
「ちょ、ちょっとアンタ帰るんでしょー!」
「だからおまえんとこ帰るんだろ?」
「……」
いつものやり取りだからか、周りに居る仲間達は気にも留めず笑っているだけであった。
扉から出る時にもう一度時計を見て、
――今日はもう諦めてたけど、まだ間に合うわね。
ギルドから少し離れた場所で、ルーシィは隣でお腹を鳴らしているナツに笑顔を向けた。
「…ねえナツ、いいこと教えてあげようか?」
「いいことって?」
「今日の17時までに駅前のお肉屋さんでね、赤いリボンを髪に付けて待ってると好きなお肉をひとつもらえるんだって!」
「肉!?うおっホントか!?…リボン、ルーシィそれ貸してくれ!」
金髪をサイドで結いリボンで留めている彼女のそれに指を差すナツは、早くしろと手を伸ばしてくる。
好物のことで頭がいっぱいな彼に微笑んで、
「コレは青いでしょ?…はい、こっち貸してあげるわ」
鞄の中から取り出した予備の赤いリボンを見せると、右手を伸ばしてきたナツを避けて、桜色の前髪に触れる。
「ルーシィ?」
「結んであげるわ」
きっと時間が掛かるだろうと思っていたルーシィは、慣れているからとキレイに結んであげることにした。
自分と同じように、右サイドの桜髪を少し手に取りそこをリボンで結ぶ。
ルーシィの口角が上がった。
「はい、これでよし」
「ありがとな!うっし、肉だー」
「いってらっしゃーい!」
ダッシュで駆け出して行ったナツの背中を見送って、ルーシィは笑いを堪えながら口元に手を当てた。
――肉なんてウソ。
言ってみるものだ。
彼は食べ物のことなら、簡単に引っかかる。特に好物の肉になると目を輝かせるのを知っているからこそなのだが。
この手でだましたのはもう何回目であろうか――
「ホント、学習しないのよね…ナツってば。ふふっ」
数えきれないほど、ナツにはだまされてきた。それに引っかかる自分も悪いのだが、彼の悪戯に勝てずにいたことで、内心悔しい想いをしている。
始めの頃に比べると、ルーシィはウソをつくのが上手くなった――ように思える。
第三者から見るとすぐに気付くようなウソではあるが、それに気付くことがないナツは嬉しそうに実行しているのだ。
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