――元に、戻りたい。





「ルーシィ」
「なあにママ?」
「ドラグニルさん家まで届け物行って来てくれる?」

ルーシィはソファに掛けて、本を読んでいたが、用事を頼まれてしまった。
それは、今一番近寄りたくない…避けている場所だ。

「え、えー…」
「忙しくないでしょ?」
「あたし、今手がふさがってて…」
「あら、ダラダラしてるように見えるけど」
「…もう、行けばいいんでしょ」

開いていたページに栞を挟み、近くのテーブルに置いた。

「はい、コレお願いね!エルザちゃんの制服も借りたままじゃない。返してきなさいね!」
「う、…はあい」

何かの御裾分けだろう、用意されていたそれを受け取り、クリーニングから返ってきた制服を手に持つ。
溜め息を吐き、階段を下りていった。

――日曜日の夜だし、きっと居るだろうな。

ルーシィは扉の前で、呼び鈴を押すのを躊躇っていた。
意を決し、ボタンを押す。

ピンポーン!

「はーい」
「こんばんは!」

頼まれたものを差し出し、借りていた制服もお礼を言いながら手渡した。

「ルーシィちゃん、わざわざありがとね。…ちょっと待ってて」
「あ、」

――いや、もう帰りたいんですけど。

「エルザー、ルーシィちゃんが来てるわよ!」

玄関先で待っていると、エルザが奥の部屋から顔を出す。

「わざわざすまないな」
「ううん、こちらこそ制服ありがとね!」

それじゃ、と背を向けようとしたところで、呼び止められた。

「上がって行かないのか?」
「…あー、うん。お邪魔しまーす」

エルザの部屋へ向かうと、隣の部屋が開いている。

「あれ…ナツ出掛けてるの?」
「ああ、友達のところで勉強するらしいぞ」
「えー、ナツが?」
「…まあ、実を言うとそれは名目でな。こっそりバイト始めたんだ」
「バイト!?」
「欲しいものでもあるのだろ…」

――全然知らなかったなー。

ナツの欲しいものってなんだろうかと小首を傾げた。
椅子に座ったエルザは、机の引き出しから何かを取り出す。それをルーシィの手に乗せてきた。

「ほら、これがナツのバイト先のマッチだ」
「…マッチ?」
「ライブハウスらしいぞ、色んな国の伝承音楽とかをやるお店だ」
「色んな国か…」
「ルーシィもバイト始めてみるか?人手が足りないそうだし、ウエイトレスの仕事だが、」
「う〜ん、…考えとくわ」


今度レビィちゃんを誘ってお店行くわね、と約束をする。
ルーシィは笑っていたが、内心複雑な想いのままそっと視線を外した。

――ナツは前に向かって歩いてる。
それじゃ、あたしは?

そんな彼女の変化に気付いたようで、エルザが口を開く。

「そうだ、ルーシィ…この前な、美味しいケーキ屋を見付けたんだ。バイト代が入ったら行かないか?奢るぞ」
「ホント!?行く行く!」

楽しみだと喜んでくれていることにエルザはホッとしていた。前髪が気になるのか掻き上げてピンで留めている。
幼い頃から憧れの女性だ。
凛としている彼女を見つめて、ルーシィは桜色の彼を思い出した。




――あの頃の自分に戻れたら、




気持ちを少しだけ巻き戻したら、

これを恋だと思わないようにすれば

そうすれば嫌な心にならなくて済む?





今までのあたしのままで、

ナツのそばにいられるかな――。










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