――あの子…一体何者?
ナツとの関係が気になるけど、訊く勇気がでない。
あたしって、こんなに弱虫だったっけ?
二階の窓から外を眺めていると、校庭ではサッカーをして遊んでいる男子生徒が見える。
その中の一人が、今ルーシィの頭の中を占領している彼だ。
桜色の髪が目立つ。どこに居ても、すぐに見つけることができるだろう。
しかし、今はそれが辛く感じていた。
『…抱きしめてくれたり』
『う、嘘!…ナツがそんなことするはず、』
『ぷっ、正直ねー!全部顔に出ちゃうんだ。あははは!』
『……』
『簡単にわかっちゃった、ルーシィ先輩の好きな人』
『や、やだ…からかわないで!あなたは何なの!?答えて!』
『…そうね、ルーシィ先輩のライバル、かな』
そう答えた彼女は、真っ赤な顔をしているルーシィから視線を逸らして笑っていた。
「ライバルって…嘘でしょ」
――でも、いてもおかしくないわよね。
今まで気付かなかっただけなのかも。
「頼むーナツ!」
「おい!頼むって高ぇよ。…うあっ」
強く蹴ったボールが目的の場所よりもだいぶ外れたところへ飛んでいく。
運動神経の良いナツでさえ難しかったのか、追いかけて行ったが――
ガシャーン!
一階の窓ガラスを直撃した。ガラスの破片が散らばっている。
「こらあ!!誰だ!?」
「やべえ…」
逃げる体勢を取っていたが、すぐ気付かれて名前を呼ばれてしまった。
逃げることが許されなかったナツは、渋々職員室へ向かう。
同罪のクラスメートは、運よく逃げられたようだ。
くっそー、あいつら…明日おぼえてろよ!
そんなことを思わせるような表情をしている。彼が拳を握り、ツリ目が一段と上がった。
散々説教を受け、ようやく解放されると安堵の溜め息。
職員室を出ると、少し間が空いてからすぐに扉が開く。
そこへ視線を移すと、
「失礼しましたー」
「お!カスミじゃねえか」
「先輩…」
「なに?おまえまた悪ぃことしでかしたのか?」
「失礼なっ、提出物出しにきただけよ!先輩こそ余裕だね、この時期にボール遊び?」
サッカーボールを手にしていたナツを見ながら、彼女が訊き返す。
「息抜きも必要だかんな!」
「息抜きねー、夜遊びもそうなの?」
「コイツは…ロクな事言わねえヤツだな」
「あはは、今の顔ー笑える!」
「うっせー」
廊下の真ん中で話が弾む二人の元へ、青いリボンを付けた金髪の彼女が近付いている。
ルーシィからは桜色の髪だけが見えて、
――あ、ナツ!
…え、
カスミちゃんが一緒か。
『知り合いって言うのかな』
そのようなことを言っていたが、あの雰囲気を間近でとらえて確信した。
本当に知り合いなんだな。
楽しそうにしている二人の姿を見ていられず、壁に隠れた。
胸が痛い。
「そうそう、私…会っちゃった。ルーシィ先輩に」
「ルーシィにか?」
「先輩の言ってた通りの人ね…ちょっといじめちゃった」
「いじめたって…おまえなあ。つーか面白ぇだろ?アイツ!」
「ホント面白かったわ――それに、想像以上にかわいい人だった」
何かを思い出すように、俯いた彼女が見せる涙。
深く息を吐き出したナツの右手が動く。
「…泣くなっつの」
「だって…」
――なんで?
どうして、ナツがあんな風にカスミちゃんの頭に…
『こーやって慰めてくれたり』
壁に寄り掛かったルーシィは、腰の力が抜けてズルズルと落ちていく。
話が済んだのかナツはカスミと別れて、廊下の角を曲がろうとした。
そこで見えた光景に驚く。
「おわっ!…ルーシィ?」
「……」
「おまえ何してんだ?んなとこ座り込んで」
「…ちょっと、一息ついてたのよ」
「変なヤツだな」
落としたボールを拾って、ナツはルーシィへと顔を向けた。
目が合い一瞬、瞳を揺らしたが、彼は笑う。
「な、ナツこそ…何でココに?」
「オレか?あー、サッカーやってて窓割っちまってさ、怒られて今さっき出てきたんだ…」
「それから?」
「んあ?」
「だ、だから…なんでカスミちゃんに――」
――あの子に触れるの?
「教えて!なんでカスミちゃんを知ってるの?」
「…あーそれはな」
「ナツ?…言いたくないなら良いわよ」
――胸の中がくやしいとか、あたし、嫉妬してる?
その場から離れようとしたルーシィの腕を、ナツが掴んだ。
「…前に声を掛けられてさ。相談っつーのか?されてたんだ。今もちょっとな、オレそん時、…ルーシィ?な、なんで泣いてんだよ!!」
「えっ…あ」
――やだ、止まらない。
「大丈夫か?」
ナツの右手が近寄ってくる。先ほど、あの子に触れていた手で――
「さ、触らないで…」
「ル…」
背中を向けたルーシィが溢れてくる涙を拭っている。
ナツは伸ばした腕を戻せず、ひどく傷付いた表情を見せていた。
小さい頃、あたしが笑うとナツも笑ってくれた。
エルザも、レビィちゃんも…嬉しそうに。
――嫉妬なんてしたくない。
ナツが涙に弱いこと、昔から知ってた。
あたし、嫌な子ね。
でも、こんなのあたしじゃない。
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