チャイムが鳴る。
休み時間の終わりを告げる音が聞こえても、ルーシィのクラスは笑い声が外にも聞こえるほどに騒々しかった。
教室の扉が開き、二時限目の授業担当の教師が入ってくる。

「おらー、座れ、座れ!」

その声に反応して、自分の席に戻るクラスの生徒達。
静まる教室内に彼の声が響いた。

「――ったく、このクラスは、学年で一番やかましいな!おまえら受験生の自覚あるのか、ああ?」

ちっと、舌打ちをすると、常備している長いモノサシを右手に持ち替えた。左手に教科書を持ち、黒板に目を向ける。


――ちっとか言うかな、サイテー。…ん?


前を見ると、ルーシィの右斜めに居るナツが、背を向けている教師に指を差していた。
ナツの目線の先には、OKのサインを指で作り合図を送っている男子が目に入る。ルーシィから見るとその子は左斜めの席であり、ナツと仲が良い。
少年の手から何か丸いものが投げられると、ルーシィの目の前を通過してキャッチされる。


――何をやってるわけ…。


ナツ達の悪ふざけが気付かれたのか振り向く教師は、モノサシを持ちナツを通り越して後ろの男子の席で足を止めた。

ビシッ!!

その男子は無実にも関わらず、頭をモノサシで叩かれる。口角を上げたナツをルーシィは見逃さなかった。


――先生、今のナツです。アイツ、絶対見つからないわよね。…って言うか、あのモノサシなんとかならないのかしら。


クスッと笑い、心の中で大きく呟く。



授業が終わり、教師は教科書を纏めてから出て行くと、生徒達は席を立つ。
ルーシィは友人と共に、窓側に寄った。
眉を上げて話す内容は先程の教師のことであった。

「なんかムカつくー」
「ねー!」

ルーシィ達の近くで、机の上に乗り笑っているナツとクラスの男子達に問い掛けると、
それに気付いたナツが、口を開いた。

「アンタ達、叩かれっぱなしで腹立たないの?」
「いあ、別にー。めんどくせーし」

面倒なことには関わりたくないと、その表情で理解するが、


――そりゃ、アンタわね!


ルーシィは、大きな溜め息を吐く。隣で一緒に訴えていた友人も呆れ顔。
苦笑いをしている少女は、少年からの次の言葉を耳に受けて、口を閉じた。

「どーせ、あと三か月で卒業だろ?」


――あと、三か月。


肩を叩かれて声を掛けてきた男子に、笑い掛けるナツ。ルーシィは目を逸らして、窓の外を眺めた。





真冬の一月、外は快晴でも北風が辛い季節だ。そして、高校受験が近付いてくる。
ルーシィを含めた四人の女子は、ストーブの前に自分の椅子を持っていく。座りながら、冷たい手を温めていた。

「うー、私もうダメかも。英語がさ、かなりヤバイ…」
「あたしは試験日のこと考えると夜、寝れないのよね」
「えー、でもルーシィはT高楽勝でしょ?」
「ううん、あたしS高よ」
「良いなー…ナツくんと同じ高校」
「さっちゃんは?」

さっちゃんと呼ばれているその子は、ナツに好意を寄せている。
ルーシィはそのことを受け入れているが、素直になれないせいか自分の想いは誰にも言えず、胸に閉じ込めていた。
右隣に座っている親友だけには、唯一自分の気持ちを打ち明けている。

「私は、S高なんて全然届かないもん…」
「そんなまだわかんないじゃん」
「そうよ、がんばろう」

俯いているさっちゃんを励ましていると、教室の扉が開いて冷たい外気が入り込む。
外で遊んできたのだろう、男子数名が戻ってきた。
ストーブの前に居る女子の塊を見付けたナツは、

「うあー、さっみーな!」
「ちょ、何よ!」
「半分座らせろよ」
「狭いって!」
「オレ、細ぇから問題ねえよ!」
「…そういうことじゃ」

ルーシィと親友の間に割り込み、椅子に腰かけようとするナツを怒りつつも、頬を染める。

「仕方ないわね…」
「あったけー」

周りは二人のやり取りに笑っていた。
ルーシィは普段の慣れ合いで自然に接しているように見えるが、ドキドキしている。
胸が高鳴り、触れるそこに力が入った。

近い距離。




――肩が、くっついてる。









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