――気付いてないのかな。



自分だけなのか。
高鳴る鼓動が増してくる。頬も身体も熱い。さっきまで震えるほど寒かった身体が、今は冷風に当たりたくなってきた。
ルーシィは、いまだ触れ合っているそこへ意識が集中する。
狭い場所でもそこから動かないナツは、両手をストーブの前で温めていた。少年の笑い声が耳に届く。
気を紛らわそうとして、視界に入るナツの手を自分のと見比べていると、

「あっ!」
「なんだ?」
「手!大きい!!」
「おう、でけえだろ!だからオレ、背もぜってえー伸びんぞ!!」

足もでかいしなーと、自慢げに言う少年に思わず突っ込みそうになった。慌てて口を塞ぐ。


――やっぱり、気にしてるんだ。小さいこと。


堪えきれずにぷっと吹き出す。それに気付いたナツの目が、吊り上がった。

「おい、ルーシィ!」
「あ、えーと」


――何か言わなきゃ。


バレたのかと一瞬焦るが、誤魔化すようにして何気ない一言を発する。

「ゆ、…指も長いわよねー」
「比べてみるか?」
「…っ!?」


――く、比べるって…ちょ、


大きな右手を差し出してきた。自分を見つめてくる真剣な瞳に戸惑いつつも、心臓が早鐘を打つ。
ナツの手に重ねるようにして、ルーシィは左手を近付けた。


もう少しで触れる距離。重なる――、


“パチッ”


「うあっ!!」
「いったあー」

二人を邪魔したもの。冬の時期に起こるあれが大きな音を立てたのだった。

「いってえ、…この電気女!」
「あたしじゃないわよ!アンタでしょー」
「オレじゃねえぞ!おまえだ」

あっちへ行けとでも言うかのように、お互い両手を振りながら上半身だけを離した。


――あ〜もう…、静電気のバカ……。バカ、バカー!!


ルーシィは椅子から落ちそうになったが、咄嗟に背凭れを掴む。そして、深く息を吐き出した。赤くなった頬は一向に冷めてはくれない。
俯くルーシィの隣から、ナツに想いを寄せている少女が不意に口を開く。

「ね…ナツくん、S高受けるんだよね?」
「おう、S高!」
「それ、もう決定?」
「ぜってえ、S!」

そう断言する少年の横から、ルーシィの親友が投げ掛けた。

「ルーシィもね、S高なんだよ」
「んあ?」

ナツが親友の方へ顔を向けている。
ルーシィは思いがけず自分の進路を告げることになり、視線を下げた。
そっとナツを見る。


――ナツ?


少年はストーブに手を当てていた。真っ直ぐ前を向いている。
瞳を閉じて、

「…ふ〜ん」

ナツは、気のない言葉を返した。
少年の思わぬ反応に、ルーシィは口を尖らせていたが、すぐに眉を下げて寂しそうな表情に変わった。









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