オルトレマーレの星ひとつ
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「昴って…え?!辻井さん?!」
「そーだよ。…10年前とそんなに変わってる?」
「見た目っていうか…」
そこまで行って俺は口ごもる。どちらかといえば変わっているのは見た目より雰囲気の方だ。
10年前の辻井さんは、俺から見たら犬や千種みたいに骸一筋で、柔らかい物腰で話してても俺たちに毒を吐いてる感じだった。
でも、今はまるで別人のように俺たちに向ける笑顔も口調も優しい。
「雰囲気が別人なんだよ。
…てか、お前がなんで山本と一緒に居やがる。
山本はラル・ミルチを迎えに来たんだろ。骸と一緒にいるお前がボンゴレと行動する理由があるのか?」
獄寺くんは、頭が良くて聡い。俺でもなんで、くらいしか思わなかったのに。
「…その話は着いてからね、隼人くん。
さ、行こうか。時間がない」
へらり、とかわすように笑みを浮かべて辻井さんはラル・ミルチに手を差し伸べる。
「辛そうならエスコートしようか?」
「…遠慮しておく」
ぱしっ、とラル・ミルチはその手を跳ね除けたが、辻井さんは気にした様子もなくそっか、とだけいって手を引っ込めた。
……リング編の時も思ったけど、辻井さんってタラシ…?
「どーしたのー、綱吉くん」
立ち止まって考え込んでいた俺を辻井さんが呼んだ。
駆け足でみんなに追いつき、山本の隣を歩く辻井さんの背中をふと見る。
身長は10年前より少し伸びてるはずなのに、なぜか俺の知ってる辻井さんよりも少し小さく見えた。
*
「俺を見失わないように付いてきてくれ」
ラル・ミルチが山本に走らないのか、と聞いたら、山本はそう言って小さな箱__匣だろうか_____を取り出して、マモンチェーンをリングから外した。
「手伝おうか?」
「いや、このくらいなら大丈夫だ」
「そ。」
「…あの、辻井さん、これ……」
「まあ見てなって。」
山本が匣の穴にリングをはめ込む。匣の中から飛び出したのは、…燕?
「なんだ?!」
「防犯対策用のカモフラだ。」
「…よそ見はしないでね」
辻井さんの言葉を皮切りにして、いきなり強い雨が降ってきた。
体に打ち付けるように降る雨は、まるでジャングルの豪雨みたいで痛い。
こっちだ、と山本のその言葉に導かれ、地下にいつの間にか空いた穴から伸びる階段を下りていく。下へと向かうエレベーターに乗ったとき
「ここはボンゴレの重要基地として、急ピッチで建造中だったんだ」
そう山本が入った隣で、辻井さんがエレベーターのパネルに手を置いた。
B5でエレベーターが止まり、ドアが開く。
「いまのとこ、6割方くらいできてるかな」