オルトレマーレの星ひとつ
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「…それじゃ、私行くから」
ベンチから立ち上がり、少し固まった体を伸びをしてほぐす。
「ああ」
違う方向へ歩き出そうとした時、塀の上から待ったがかかった。
「ちょっと待て、お前ら」
…デジャヴ……
進もうとしていた足がぴたりと止まる。先に進もうと思えば行けるのにそれをしないのは、私の本能が逆らってはダメだと警告を鳴らしているから。
できれば目を合わせたくなかったのだが、覚悟を決めて塀を見る。
そこにいたのはボルサリーノ帽子の赤ん坊。ニッと笑ったそいつには、見覚えがあった。
「…リボーン、何か用?」
帰りたいんだけど、という言葉は飲み込んで、睨みつけるが全く気にせずちゃお、と手を振ってきた。
「ランチア、お前今日泊まるところないだろ?」
「そうだが…」
「うちに招待してやる。昴、お前も来いよ」
「はっ?!私は別に黒曜があるんだけど…」
「うるせぇ。ほら行くぞ。」
ぐい、と制服の首元を引っ張られる感覚。赤ん坊とは思えない腕力で私を引きずるリボーンは、塀の上に乗ったまま歩き始める。
「ランチア!ヘルプ!」
ランチアと視線が合うが、ふいっと逸らされる。北イタリア最強と言われるあいつでも、やはり最強の殺し屋は怖いのだろうか。
使えないな!おい!
*
「昴はあっちの部屋を使え。ランチアはその隣だ。」
あれよあれよと言う間にリボーンの言う我が家___十代目クンの家に着く。母親は寝てるらしく、ランチアは挨拶をできないこと、勝手に上がったことを申し訳なく思っていたがお前が罪悪感を感じる必要はないと思う。
私たちを連れてきたリボーンはさっさと部屋に入って行ってしまい、当てがられた部屋の布団の上で小さく唸った。
「…どーしよっかな……」
窓を開けて黒曜に帰るのはたやすい。だがそれを許すほどあの殺し屋は甘くないだろう。
腹をくくり、鎖鎌を布団の横に置く。ケータイを出して連絡帳から千種の名を探すと《今日泊まってくるわ》とだけ書いたメールの送信ボタンを押す。
どうか怒られませんように。
次の瞬間に帰ってきたメール。早すぎて怖い。
《は?》
あ、これ帰ったら拳骨コースだわ。
何もかも現実逃避したくて、布団に潜りできるだけ遠くにケータイを置く。
千種明日には忘れてないかな、なんて思いながら目を閉じた。