オルトレマーレの星ひとつ
▼35
家に帰ればソファーで爆睡する犬の姿。それを蹴落として腰掛け、ふぅ、と息を吐いた。
「あー、なんか疲れた…」
「昴!人の安眠妨害するんじゃないぴょん!」
「犬、安眠妨害なんて言葉知ってたんだ」
「人のことバカにしすぎぴょん!」
「お前はバカだろ」
それに朝に私の安眠を妨害したのはお前だろ。続けようと思ったその言葉を机の上に乗っていた麦茶(多分犬の)を飲むことで呑み込む。
氷が溶けてグラスに水滴が付くそれは温く、飲むんじゃなかったと後悔した。
「そういえばクロームと千種は?」
「柿ピーは銭湯、クロームはしらね」
「うわ、朝っぱらから銭湯とかジジくさ…」
ふと、今日の雲戦、お前見に行く?と聞いたが、行くわけないぴょん。と返された。
だよねー。
*
「辻井昴」
「え」
深夜、千種から割引券をもらって銭湯に行き、コンビニに寄った帰りに後ろから声をかけられた。
もう11時だし、今私は中学の制服を着ているから警察の補導かと思ったが、名前を知っているのはおかしい。
念のために鎖鎌に手を触れながら振り向けば
「げ…、跳ね馬…」
「おいおい、げってのは失礼だろ?」
そう言って苦笑する跳ね馬ディーノがいた。後ろには部下だろうか、スーツを着たおじさん。
「…今、時間あるか?」
「帰って寝るという大事な用事を控えてる。」
「そうか、暇なんだな」
「いやだから話聞いて…」
ちょっと来い、と手招きされた。
*
少し歩いたところにあるベンチに腰掛け、跳ね馬が話すのを待つ。朝にもリボーンとこんなことあったな。なんて思いながら、コンビニの袋から肉まんを出して噛り付いた。
「そこの人と跳ね馬もどうぞ」
ぽいっ、千種と犬用に買った肉まんを2人に投げれば、2人とも驚いたような顔をしながらもしっかりとキャッチした。
どうせ帰る頃には冷めてるだろうし、1人じゃ3つも食べれないし。
「今日の雲戦のことなんだがな」
肉まんを食べながら、跳ね馬はぽつぽつと言葉を続ける。
勝者は雲雀恭弥だったこと
その雲雀恭弥がXANXUSに喧嘩を売ったこと
ゴーラモスカとかいう機械が暴走したこと
その動力源が、ボンゴレ九代目だったということ
どうやらまだ九代目は死んではいないらしいが、危篤状態らしい。
「ふーん…
…で、それを私に言ってどうするんだ」
「なに、クローム髑髏たちに伝えてもらおうと思ってな。
たまたま見かけたから声をかけただけだよ」
「…あっそ。
んじゃ、私帰るんで」
「ああ。肉まんありがとな。」
「嬢ちゃん、気をつけて帰れよ」
ひらり、手を振って角を曲がった。
…九代目の危篤状態の時にたまたま外を出歩いて、たまたま私と出会って、ねぇ?
*
「ボス、あの嬢ちゃん勘が鋭いな」
「ああ。偶然じゃないこと気付いてやがった。」
「にしても、あの子がリトゥニアファミリーの…」
「生き残り、ってか…」