オルトレマーレの星ひとつ
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始まったクロームと向こうの霧の守護者、マーモンの対戦。
クロームが三叉槍を地面に立てたことにより始まった、息もつかせないほどの幻術同士の対決に笑みを浮かべる。こちらさえも取り込まれるほどの力を使いこなすのは、さすがクローム、としか言えない。
「十代目!やっぱりあいつは骸なんすよ!」
「え…!?」
「おい!そこの女!いい加減白状したらどうなんだ!」
先ほどまで沢田綱吉に話しかけていたというのに、こちらに牙を剥いてきた獄寺隼人に溜息が漏れる。
「やだなぁ、獄寺クン。言うわけないでしょーが。
クロームが骸くんだろうがそうでなかろうが、君たちが欲しいのは『霧の守護者』なんだ。
クロームが今出てるから不戦敗することなく霧のリング戦が行われてるってこと、忘れんなよ」
実際私たちは沢田家光に保護してもらっている身なのでこの戦いにクロームは出なければいけなかったのだが、それでもやっぱり今頑張っているクロームへやれ骸が憑依してるだ骸の手先だと言われると腹が立つ。
舌打ちをして黙った獄寺クンには、どうやらこの皮肉たっぷりの呼び方も気に障ったらしい。よし、これからボンゴレのやつはみんなこう呼んでやろう。
ジャラッ
マーモンのコートの下から、鎖のようなものが落ちた。
「ファンタズマ、いこう」
「カエルが…」
脱皮、だろうか。マーモンの頭に乗っていたカエルが急に姿を変え、巻きガエルへと変化した。
そしてコートから姿を現したのは
「藍色の、おしゃぶり…!」
ぽつり、誰に言うわけでもなく呟いた。
「あの巻きガエルと藍色のおしゃぶり…生きてやがったのか、コラ!」
「やはりな…
奴の正体はアルコバレーノ
バイパー」
共鳴するかのように青と黄色の光も強くなる。アルコバレーノ1のサイキック能力を持っているらしいマーモンは、ふわりふわりと宙を浮いた。
「やばいぜ、あのバカチビ相手じゃ並の術士じゃかないっこねーぜコラ!」
「コロネロとかいうの、訂正させてもらおうか。
クロームは、並の術士なんかじゃないよ」
「昴のいうとうりだぞ。あいつをなめんじゃねぇ」
アルコバレーノにも引かずに三叉槍を振りかざすクローム。畜生道や地獄道のスキルを使い、マーモンを追い込んでいく。
火柱がマーモンを襲った。
五感を奪い、相手に暑さや寒さも感じさせる幻覚。
上級者になればなるほど相手にリアリティを感じさせる。
「クローム!」
足から凍りついていくクローム。術士が幻術を幻術で返されるということは
「もう何を念じてもムダだよ。君はすでに僕の幻覚世界の住人なのだからね」
近くのコントロール権を完全に奪われることを示している。
マーモンにより地面に叩きつけられたクロームだが、大事に握りしめた三叉槍の存在が気になったのか、マーモンは興味をそちらに移すと手をぐっと握りしめた。
…まずい。
「ダメーッ!!!」
砕け散る三叉槍。
血を吐き床に倒れるクロームに手を伸ばすが、当然届くはずもなく。
内臓がなくなり潰れていくクロームの腹に、ギリッと歯を噛み締めた。