オルトレマーレの星ひとつ
▼25
くぁ、と小さくあくびを一つ。
正式な後継者を決めるためにボンゴレの暗殺部隊であるヴァリアーとリング争奪戦をすると言われて黒曜ランドに戻ってきたのはいいものの、まだ今日はクロームの番ではないらしい。
ちなみにクロームは着替えを取ってくるとかなんだったかで、前の家に行っている。まあもう戻ることはほとんどないだろうけどね。
空き部屋を掃除してやって、余っていた家具と犬の部屋に2つあるベッドのうちの1つを持ってくる。
ちなみになんで犬の部屋にベッドが2つあるかというと、あいつの寝相が悪すぎるから落ちないように面積を広くしてあったのだ。今夜から地面とキスする回数が増えるかもしれないが、もうベッドにあまりがないので仕方ない。
それが嫌なら犬には床に布団を敷いて寝てもらおう。
*
「昴…行こう」
夜、クロームに名前を呼ばれ、読んでいた本を机に置いた。これから雨の守護者である山本武の試合だとかで、見に行くらしい。
(あの人にはいい思い出がないんだけどな…)
『させねーよ』
あの変形刀を思い出した。
彼らの大切な沢田綱吉を襲おうとしたのだ。気づかれるのは厄介だろう。
「…昴?
どうしたの?」
こてん、と首を傾げるクロームに、どうでもいいやと口角が緩む。
何が起こるかわからないのにウダウダ考えてもめんどくさいだけだ。立ち上がってクロームの頭を一つ撫で、並盛中を目指した。
*
体育館の上から高みの見物。なかなか悪くないかもしれない。
後者を改装して作ったらしいアクアリオンでの山本武とヴァリアーのS・スクアーロの試合が始まろうとしていた。
「山本武…
勝って自分のところまで繋いでもらおう」
隣から聞こえたそんな言葉。一瞬精神だけ骸くんが乗り移ったのか、すぐに彼の気配は消えた。
どうやら山本もスクアーロとやらも剣士らしく、刀を構えるのが見える。
「剣士同士の、試合…」
「うん、クロームは術士だからあんまり関わりはないか。
あいつらは…1対1では戦いたくないなー…」
純粋で、真っ直ぐ。まるで刃のようなその心は、良くも悪くも私には眩しすぎる。
「…ごめん、やっぱパス。見ても参考にならないし私帰るわ。」
3人を残して体育館を飛び降りる。途中で水道タンクの上に、雲雀恭弥がいるのが見えた。いや、今はそんな話じゃなくて。
…あーあ、やなもん見ちゃったなあ