オルトレマーレの星ひとつ
▼04
いつの間にやらランキングフゥ太の姿は見えなくなっていたが、曲がった角は覚えている。すぐに追いつけるだろう。アスファルトを思いっきり蹴れば、体が浮いてあっという間に屋根の上。ランキングフゥ太の向かった道に目をやれば、彼の姿が見えた。
十代目に助けを求めるのかと思いきや、裏道の方に走っていくではないか。もちろん家などないし、あったとしてもホームレスの段ボールハウスなんかだろう。
じゃあなぜそちらに向かうのか。答えは一つしかない。
(自分の力でどうにかできると思ってるんだろうか)
十代目の力を借りずに。
まだ小さいのに健気だなぁ、なんて他人事に思いながらも、私は屋根を蹴ってランキングフゥ太の前に飛び降りた。
「だ、だれ…!」
震えた声でそう尋ねるランキングフゥ太。私は笑顔を作ると口を開く。
「はじめまして、ランキングフゥ太。
…こちらが名前を知ってるのに君が私を知らないってのも不公平か。
私は辻井昴。黒曜中の生徒だよ。」
ちょっと君の力を借りたくて。そう言葉を付け足せば、面白いくらいに彼の肩は跳ね上がった。
「僕…悪い人には手は貸さないよ…」
ぎゅっと自分のマフラーを握る小さな手。なるほど、まだ何も言っていないのに、私は既に彼に『悪い人』と認定されたらしい。誠に心外である。決めつけよくない
…まあ、間違ってはいないけど
「やだなぁ、すぐに終わるよ。
…ボンゴレ十代目の居る場所を教えてくれるだけでいいからさ」
「つ、…!い、嫌だ!言わない!」
へらりと笑って尋ねれば、全力で拒否された。
最初に出てきた「つ」というのは、ボンゴレ十代目の名前の一部だろうか。
ボンゴレ十代目を探す私に名前を聞かれちゃいけないから言うのをやめた、なるほど賢明な判断である。
だが、十代目の居場所を言わないとなると話は別だ。腰につけた鎖鎌を手に取る。
「じゃあ…ごめんね?」
そう言いながら、ランキングフゥ太の後ろに回り鎌の柄の部分で首元を殴る。
意識を失った彼を抱え、黒曜ランドへの帰路に着いた。
尋問なんかは骸氏の方が私よりよっぽどうまくやるだろうしね。
居場所さえ教えてくれたら骸氏も満足するだろうしそのまま帰してあげようかとも思ったが、教えてくれないのなら仕方がない。骸氏に怒られるのは勘弁だ。
肩にランキングフゥ太、片手に彼が持っていたビニール袋を持って私はまたアスファルトを蹴った。