転転
「あらあら」
エレベーターが到着を告げる音を立てる。
ひとこはゆらりとエレベーターの方向を向く。
質素なデザインのエレベーターは、この騒動が起きる前は綺麗に磨かれ、廊下の調度品の一部分として機能していたようだが、今はその面影もない。
瓦礫が落下して起きた砂埃や、弾丸の跳ね返りで起きた弾痕がつき、すっかり無惨な姿を晒すこととなっている。
エレベーターの扉がゆっくりと開く。
途中、へこんだり膨らんだりした場所のせいで扉が止まるが、その瞬間中から出てきた手が扉をこじ開けた。
「よォ、紅灯のお嬢ちゃん。楽しそうにしてんじゃねえか」
口の悪いセリフを吐くのは女だった。
燃える火のように赤い髪を黒い被り物で被う姿はシスターそのもの。
しかし目付きは酷く悪く、見つめただけで人を射殺すようなものだった。
「あなたは私を愛するの?」
「博愛だからな、当たり前だろ!」
走ってくる。
瓦礫を踏み砕いたところから、彼女の靴もかなりの硬度を持つのだろう。
針を握りしめ、ひとこは投擲する。
顔面を狙った針の攻撃を両手に持った棒で弾き飛ばし、女は更に走る。
「名前も名乗らないだなんて酷い。私にあなたの名前を呼ばせて、愛させて」
「名乗るなら先に名乗れよ女ァ!」
針と棒が交差する。
一瞬の膠着状態、その直後にひとこは針を見捨てて手を離す。
「なかなかやるじゃねえか。名乗ってやる。塚森懺悔、椿の幹部だ、よく覚えとけ」
懺悔の自己紹介を聞き、ひとこはにこりと笑い、鞄を強く握りしめた。
「あたしは愛善ひとこ。忘れないでね

つづく
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