じゃあね
死ぬ前にあらゆる物事を知りたいと感じた。
これまで世界というものに向けていた感情は食欲だけであり、書物や建造物、機械、人間といったものもいっしょくたに食らい尽くすものという認識しかしていなかった。
それが自分にとって正しいことであり、隣にいた男もそれを良しとしていた。
今日、その男を喰らった。
いとも味気ない男だった。
すべてを食い尽くす程ではなかったが、腹は満たされた。
今は目に入るものすべてが興味深い。
今まで意味を考えなかった物事の意味や名前を知りたいと思えるようになった。
ああ、これが成長と呼ばれる出来事か。
階段を抜けると、ひどく眩しかった。
そういえば自分の目はほとんど白かった。
ギラギラと光輝く電灯が眼球を突き刺す。
うつむきがちにしていた頭をあげると、ギラついた光が此方に刺さってくる。
階層全体を揺るがす衝撃に、咄嗟に飛び上がってなんとかバランスを取る。
「どうした……?」
ぼそぼそと呟くが、ガチャガチャとうるさい音に声はかき消される。
ジジッと小さく電灯が鳴き、消える。
光が消えて、視界が安定する。
暗がりの中で見えた景色は、よくわからない機械が突き刺さった部屋だった。
チカチカと光るものを認めた。
何なのか興味がある。
それでも、これに近付くのは危険だと本能が告げている。
階段は崩れているが飛び降りてもそこまでダメージを食らうようには見えない。
階段の方向へ走りだし、俺は勢いをつけて飛び降りた。
「じゃあね」

続く
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