公安局について早々、シャワーを浴びてこいと部屋に入ることを拒否されてしまった。そりゃ顔まで血まみれで仕事をされても困るだろうけど。
一時間後に来いと言われ部屋に帰ってシャワーを浴び、化粧をして50分後に一係の部屋に入った。心配そうに見てくる常守さんに笑って、宜野座さんの机の前まで歩いていく。



「宜野座さん、今日は本当にすみませんでした。私もこの世界に生きるって決めたので、これからも指導をよろしくお願いします」
「お前は犬だ。それを忘れるな」
「犬じゃないです。そこだけは譲れませんけど頑張るんでよろしくお願いします」
「貴様……!」
「常守さんも、本当にすみません。失礼なことを言っちゃって」
「いえ……私も初めての仕事のとき、色々しちゃったんで」



はは、と照れたように笑う常守さんに笑ってから、宜野座さんに向き直る。さて、謝るのは終えた。本題はここからだ。常守さんはこれから帰って夜勤に備えると言っていたから、買い物の付き添いは頼めない。



「宜野座さん。お願いがあります」
「なんだ」
「仕事が終わったあと、買い物に付き合ってください!どうしてもほしいものがあるんです!」
「何を買うかだけは聞いてやろう。断るが」
「肉を買うんです!」
「……肉?」



肉とは、あの肉か。宜野座さんが確認するように尋ねてくるのに頷く。昨日買った肉はささみと合いびき肉で、私の求める肉ではない。ネットで買ってもいいが届くのは明日だ。一日も待てるはずがない。



「嫌なことがあった日は肉とビールって決めてるんです!どうしても今晩ステーキを食べなきゃいけないんです!レアで!」
「……レアで?」
「レアです!お願いします!どうしても肉が食べたいんです!」
「……あんな目にあった後で肉を食べるとは……さすが潜在犯、神経が図太いな」
「ああ、宜野座さん神経質っぽいですもんね」
「うるさい!買い物に付き合うはずがない!潜在犯と外を歩くなんて虫唾が走る」



吐き捨てるように言う宜野座さんは、出会ったばかりの燿子にそっくりだった。もし燿子と似ているのであればこれでいけるはずだと、宜野座さんの言葉に傷ついたように顔を俯かせ肩を震わせる。わざとらしく伏せられた顔は、宜野座さんからは見えないはずだ。



「そう、ですよね……潜在犯の人間以下の物体の話なんて、聞いてくれるはず、ないですよね……」
「な、泣いているのか」
「泣いていません……大丈夫です、肉なしでも……うっ……」
「泣いているじゃないか!」
「泣いてません!いいんです……私なんか……」



部屋のなかにじっとりとした空気が漂う。あーあ泣かせた、という縢の声に、宜野座さんが慌てたように私の顔を覗き込もうとする。それを避けながら、手で涙をぬぐう真似をした。宜野座さんがいっそう焦る。



「肉を買う間だけ、そばにいてくれれば……いいんです。駄目ですか……?」
「……5分」
「え?」
「5分だけだぞ!いいか、それ以上は泣いても付き合わん!」
「やった!ありがとうございます!」
「なっ……!泣き真似か!」
「違います!ほら見て、涙!」
「どこに涙がある!」



怒る宜野座さんは、私の顔も見たくないというように真横を向いた。夢のなかで会った友人を思い出しながら横顔を見つめ、上機嫌に笑う。必要なものを買ってもお金は余ったし、ステーキを買っても暮らしていけるだろう。



「宜野座さんにもステーキ焼いてあげますから、ね?」
「いらん!」
「そう言わずに。こう見えても料理できるんですよ」
「お前の部屋で食べるのか。絶対に嫌だな」
「またまたー」
「お前は潜在犯だ!それに、腐っても女だろう!安易に男を部屋に誘うんじゃない!」



宜野座さんの口から飛び出した言葉に、思わず二度瞬きをする。まさかそんなことを気にしているなんて。笑うのをこらえながら、宜野座さんに問いかける。



「宜野座さんって、部屋で女と二人きりになったからって手を出すような人なんですか?」
「そんなわけないだろう!」
「ですよね。じゃあ二人きりで買い物しても手は出さないですよね?」
「当たり前だ!」
「買い物に行って女にお金を払わせるような真似はしませんね?」
「無論だ!」



言ってしまってからハッとして口を押さえる宜野座さんに、たまらず笑い転げる。嘘です、と苦しい息の下から言葉を吐き出して、にじんだ涙をぬぐう。私たちのやり取りを見ていた縢が、立ち上がって自己主張しながら会話に入ってきた。



「それなら俺も!ステーキ食べたい!」
「じゃあ縢も参加ね。狡噛さんと征陸さんはどうしますか?」
「勿論二人とも参加っしょ!ね!」
「じゃあ、夜勤の常守さんと六合塚さんと、そうだ唐之杜さんも。夜に差し入れに来ますね」
「そんな、いいです!」
「今日言いたいだけ言ったお詫び。受け取ってくれますか?」



遠慮する常守さんと無表情の六合塚さんにウインクすると、最終的に頷いてくれた。料理するのは久々だけど、何とかなるだろう。まだ宜野座さんは怒っているけど、誰も気にしている様子がない。
早くも今夜の集まりを考えている私たちに、宜野座さんの雷が落ちる。首をすくめて仕事に戻る縢に、いつもと同じ反応をする面々。さあ、頑張って仕事をしましょうか。


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