仕事終わりに宜野座さんと買い物に行くと宜野座さんが人数分のステーキを買ってくれ、あとでお金を徴収すると宣言した。領収書までもらっていたけど、もともと私が言い出したことだから私が払うべきだ。そう主張したけど、宜野座さんは譲らなかった。変なところで頑固だ。
ステーキを買って帰り、縢の部屋にお邪魔する。さすがに男が女の部屋に押しかけるのはまずいだろうと、縢が自分の部屋を提供することを申し出たのだ。料理をする環境は整っているからという言葉は間違ってはいなかった。広いキッチンに揃えられた道具と調味料。ゲーム台などがある部屋はカラフルで縢らしかった。



「苗字ちゃんはどうやってステーキ作るわけ?」
「肉たたきで叩いて玉ねぎと蜂蜜で柔らかくして、味付けは気分によって。縢は?」
「俺も似たようなもんかな。じゃあ下準備頼める?つまみ作るわ」
「了解」



堅苦しいスーツを脱ぎ、ワイシャツと短パンで料理をする。肉の下準備を終えたところで征陸さんがお酒片手にやってきて、慣れた様子でソファに座った。宜野座さんは黙って離れたところに座って、テレビの音と料理の音が部屋に響く。



「終わったよ。縢は何作ってるの?」
「だし巻き卵とエビチリ。得意料理とかある?」
「特にないけど……私がつまみによく作ってたのは砂肝とねぎ炒めたのとか冷奴とか、簡単なやつだよ」
「うまそー。冷蔵庫にあるの適当に使っていいからさ、何か作ってよ」
「いいけど、期待しないでよ?」



冷蔵庫を開けて中身を確認して、作れそうなものを思い浮かべて献立を決めていく。ステーキが脂っこいからさっぱりしたもののほうがいいかもしれない。晩御飯も兼ねているだろうからボリュームはあってよし。いくつか材料を取り出して下準備を始めると、縢がヒュウと口笛を吹いた。



「料理出来るって本当だったんだ」
「私の場合、節約とストレス発散を兼ねてるだけなんだけどね。あと凝り性だから。別に料理が出来るって珍しくないでしょ?」
「珍しいって。クッキングマシン見たっしょ?あれで食べるから作る必要ないし。今じゃ料理人以外作らないよ」
「あんなクソまずいものを食べて生活してるの?信じられない」



軽口を叩きながら料理をして、最後に狡噛さんが来たところで料理を並べた。忘れずに部屋から持ってきたビールを配り、縢がビールを持った手を上げる。乾杯、という言葉に反応しなかったのは宜野座さんだけで、他は缶を軽く合わせて乾杯をした。缶を開けたプシュッという音に喜びを感じながら、一気にビールを喉に流し込んでいく。



「ぷっはー!うまい!」
「おっ、嬢ちゃんいける口だな。ウイスキーは飲めるか?」
「大好物です!ああもう、久しぶりのビールおいしい!ビール大好き!ビール愛してる!」
「女がそんなに飲むな。はしたない」
「やっだー宜野座さん、はしたないだなんて!嗜む程度ですよ」
「そもそも酒を飲むこと自体がおかしいだろう!中毒性があるんだぞ。今や飲まない人口のほうが多いというのに、」
「そういえば煙草も気軽に買えないんですよね?ふざけてますよ、中毒性があるからみんなニコチンとアルコールを摂取するのに」



自信作のステーキを切って口に放り込む。んー、これよこれ!やっぱり嫌なことがあったり落ち込んだ日には肉を食べないと!
ビールと肉を交互に口に運ぶ私を見て諦めたのか、宜野座さんは大人しくステーキを食べ始めた。征陸さんと狡噛さんもステーキを一口食べ、おいしいと言ってくれた。一人で食べるのもいいけど、こうしてたまに誰かと食べて純粋な賛辞があるとやはり嬉しい。
早くも二本目のビールを開けて飲むと、宜野座さんから鋭い視線が飛んできた。それを無視してエビチリを食べる。おいしい。



「縢、おいしい!すごい!」
「だろ?自信作!」
「あ、みんな結構食べるの早いね。何か作ろっか。縢、台所借りていい?」
「どーぞ。好きに使って」
「ありがとー。何か食べたいものがある人いますか?」
「そうだな、あっさりしたものを頼めるか。脂っこいものばかり食べると胃がもたれる」
「とっつぁん、歳だな」



狡噛さんを小突く征陸さんを見ながら、何を作ろうか材料と相談する。あっさりといえばポン酢の出番。簡単であっさりしてお腹にたまるものを……そうだ、これ作ったら六合塚さんと常守さんのところに行こう。



「料理する女ってのはもう見られないかと思ってたが……こうして見ると、いいもんだな」
「何とっつぁん、いやらしー」
「昔を思い出す。ああして台所に立って料理するのが普通だった時代をな」
「今じゃ機能食が一般的だからな」
「そんなことはどうでもいい。苗字は何故あんなに足を出しているんだ。初日はスカートの短さを気にしていたというのに」
「あーあれ、スカートは恥ずかしいけど短パンだったらいいんだって。ギノさんもやらしーな」
「どこがだ!いやらしいのは苗字だろうが!」
「ちょっと、私のいないところで私の話をしないでくださーい」



出来上がった鶏皮のポン酢かけと、焼きおにぎりの梅のせを机の上において、ステーキを焼きにかかる。いい時間だし、きっと三人もお腹がすいているはず。取り出したステーキを焼く音に混じっておいしいという声が聞こえてきて、頬をゆるませた。


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