婦女暴行を重ねて逃げてきた男が人質をとって逃走中。犯人をドミネーターで裁くことを第一に、人質の救助も忘れるな。
これが今回の事件らしい。休みや出勤時間じゃないのに全員呼び出され、車で現場へと向かう。今回捕まえる男は前回取り逃がした事があるらしい。だからこんなに人がいるのかと納得していると、車が止まった。現場についたようだ。



「いいか、今回は絶対に逃すな。見つけ次第撃て。相手は凶暴で若い女を好むと聞く。注意していけ」



宜野座さんの指示に頷いて、二手に分かれて男を追い詰める。常守さんと私と征陸さんと縢。宜野座さんと狡噛さんと六合塚さん。逃げ場を塞ぎながらじわじわと追い詰め、数十分後に男と対峙した。首筋にナイフを当てられている女の人は、ぼろぼろの下着姿だ。
人質を盾にしながら男が喚く。ドミネーターを構えると、犯罪係数は280だった。なかなかの数値である。



「人質を離せ。もう逃げ場はない」
「うるせえ!」



宜野座さんの呼びかけに怒鳴り返した男は、また人質にナイフを当てた。人質の女の人は気を失っているようにぐったりとしていて、呼びかけても反応がない。ドミネーターで係数を確認するが気を失っているせいか低く、人質を撃って気絶させて救出という対処も出来そうになかった。
ドミネーターを構えたままじりじりと詰め寄る私たちを濁った目で見つめながら、男は私を指差した。



「おい、お前。お前だ。お前がこっちに来れば、人質と交換してやる」
「本当?」
「苗字、話に乗るな。隙ができるのを待て」
「狡噛さん、でも!」
「お前が来なければ人質は殺す。銃を置いてこっちへ来い」



人質のお腹にナイフが半分ほど突き立てられる。それでも女の人は何も反応せず、項垂れて微動だにしなかった。いくら何でも反応がないのはおかしい。何か薬でも飲まされて意識がないのかもしれない。
焦りや恐怖が支配していた心が、すっと冷静になる。私は私に出来ることをしたい。私は犯罪係数が高いから人質になるわけもないし、いざとなれば誰かが私を撃ってくれるだろう。そうなれば犯人を守るものはなくなる。



「銃を置いたわ」
「嬢ちゃん!」
「私、自分に出来ることをしたいんです。せめてあの女の人だけでも」



痛くしないでくださいね、という言葉で私の考えがわかったのだろう。宜野座さんは何も言わず、私が歩き出すのを見ていた。男の前まで歩いて行って、人質を解放するよう要求する。
男はじりじりと後退りながら後ろにあるドアを開け、私を引きずり込んだ。その際、もう役に立たない人質を突き飛ばして急いでドアの鍵をしめる。女の人のもとへ駆け寄る常守さんがドアの向こうに消えて、男に手荒く引っ張られた。
暴れるが男の力には敵わず、思いきり殴られる。口のなかに血の味が広がった。



「いいから来い!どうせ俺はここで捕まる!それなら最後に、お仲間の前でお前を犯してやる!」



ずるずると引きずられながら、隠し扉のようになっているドアのなかに放り込まれる。ドアが閉まったとたん、何かが破壊される音が響いた。
みんなが扉の鍵を壊して入ってきたんだ。逃げようとするがまた捕まり、狂ったように笑いながら伸ばしてくる手がスーツを引き裂いた。



「ここは防音で隠し部屋だ。そう簡単に見つからねえ」
「宜野座さん!常守さん!征陸さん!」
「叫んだって無駄だ。今頃あんたを探しているだろうなぁ。こんな近くにいたと気付かず悔しがる姿が目に浮かぶ」
「や、だ、やめて!」



手荒く押し倒されて一瞬息がつまる。なんとか逃げ出そうともがく間に男の手が伸びてきて、また服が引き裂かれた。
──もう、駄目かもしれない。諦めかけた心に、ドアが破壊される音が響いた。薄暗い部屋に光が差して、乗り込んできた征陸さんが私を呼ぶ。



「嬢ちゃん!」
「征陸さん!」



隙が出来た男の下から抜け出し、伸ばされた手を握る。肌がふれあった瞬間に力強く引き寄せられ、征陸さんの胸に飛び込むのと同時にドミネーターを撃つ音が聞こえた。肉が破裂する音と、びちゃびちゃと血が飛び散る音。
征陸さんはドミネーターをおろして、そっと私の顔を確認した。確かめるようにふれられた頬が痛くて熱を持っている。もしかしたら腫れているかもしれない。



「怪我はこれだけか?他に何かされたか」
「いえ、何も……殴られて、あとは押し倒されたときに、背中を打ったくらいで」
「まったく……無茶するぜ」
「はは……」



笑うと頬が痛む。そっと指先で腫れを確認していると、征陸さんが着ているコートを脱いで肩にかけてくれた。なかなか破廉恥な格好をしていたことを思い出し、お礼を言ってから前をきっちり閉める。大きなコートはぶかぶかであたたかくて、一気に緊張が溶けた。よかった……終わったんだ。



「人質の女の人はどうなったの?」
「病院へ搬送されました。もう、苗字さん!無茶はやめてください!」
「はは、善処します……」



宜野座さんにも叱られ縢には心配されながら車に乗り込む。さすがに今回は自分を大切にしなさすぎたかもしれないけど、後悔はしていない。六合塚さんが腫れた頬を冷やしてくれて状態を確認しながら、いつものように涼やかな声で言った。



「今回はやりすぎよ。あなたの係数があがったらどうするの」
「そうですけど……でも、やれることをしたいんです」
「そのしわ寄せは私たちにくるわ」
「わかってます!でも……譲れないんです。きっと次も同じことをします。──これから頑張って強くなります。一人で対処できるように頑張ります。だから……お願いします」
「それは私が許可する話じゃないわ」
「……はい」
「自分の体を大事にしてちょうだい。あと──人質が助かってよかったわ」



笑う六合塚さんを、初めて見たかもしれない。赤い唇を釣り上げて、凝り固まった体をほぐすようなやわらかい空気を向けられて、自然に笑みがこぼれた。


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