私の趣味は多いと思う。油絵や写真、お菓子作り、料理、散歩や水泳。すこしばかりインドアなのは、いままでの反動だろう。最近の私があまりもおかしく変だということは、言われるまでもなく自覚していることなので、気分転換に出かけることにした。
 ちょうど絵の具がひとつなくなりかけていたし、学校が休みだと家にこもってしまうからちょうどいい。スカートに可愛いブラウスをあわせて、のんびりと家をでた。どうせだからたくさん寄り道してやろう。



「あれ、ナマエ」



 さっそく寄り道して本屋にでも行こうかと思っていた矢先、道で声をかけられた。振り向くとアニとベルトルトがいて、どうしたのかと駆け寄る。アニはベルトルトに視線だけ寄越し、簡潔でわかりやすい理由を述べた。



「服を選びに行くの」
「ああ」



 ベルトルトは身長が高いから、着られる服が少ない。かっこいい服を着ればいくらでもかっこよくなれるのに、少しだけそういうところに無頓着なベルトルトは、着られるものを着ている節がある。
 最近一番インパクトがあったのは、黒いTシャツの真ん中に黄色い星がひとつ、どどーんとあるものだった。星のうえにstarと書いてあるそれを見たときのみんなの反応は様々で、ジャンは笑うしコニーはかっこいいと言うし、ユミルは最先端すぎると皮肉を言った。
 ライナーとクリスタのフォローと、エレンとコニーの心底かっこいいと思っている賛辞によってベルトルトへのダメージは最小限に抑えられたものの、やはり思うところがあったらしい。
 アニの一緒に選ばないかという誘いに頷く。どうせ今日は暇だったのだからちょうどいい。

 近くの店に入って、まずはベルトルトが着られるものを探すところから始めた。そこからいいものを選んでいくという消去法である。



「あ、これライナーに似合いそう」
「本当だ。きっとライナーも喜ぶよ」
「今日はベルトルトのを探しに来たんでしょ。それは今度のデートにとっておけば」
「はあい。ごめんねアニ」
「別に、怒ってない」



 アニがちらりと私を見る。誤解されやすいアニが、自分の心がちゃんと伝わっているか確認する癖だ。にっこりと笑って、大丈夫だと告げる。
 アニはほっとしたように目をそらし、ベルトルトの服を選ぶことに専念しはじめた。さて、私も頑張って探さないと。



・・・



 それから一時間後、なかなかいい服を見つけた私たちは、満足して店をでた。
 これからどうしようと話しながら道を歩いていると、前から見知ったふたりが歩いてくるのを見つけた。クリスタとユミルだ。手を振ってふたりに近付いて、遊びに来ているのかと尋ねる。



「なんだ、逢引か? ベルトルさん、寝取るだなんてやるじゃねえか」
「ち、違うよ! ナマエとは偶然会っただけなんだって!」
「ライナーにチクってやろっと」



 心底楽しそうなユミルを、クリスタがたしなめるように呼ぶ。それだけですこしおとなしくなるユミルは、どこか可愛い。
 思わずくすくすと笑う私を見て、ユミルがにやりと笑った。あごですぐそばにショーウインドウを示す。



「あれとか着れば、ライナーも喜ぶんじゃねえの」



 ユミルの視線につられて見たショーウインドウには、真っ白なジーンズが展示されていた。上には派手な柄のキャミソールがあわせてあったけど、それは目に入らなかった。ふらふらとガラスに近寄って、白いジーンズを食い入るように見つめる。
 ……あれをはいていたような、気がする。毎日飽きもせず、真っ白なボトムを、汚しながら毎日毎日、飽きもせず。だけどあれだけじゃ足りない。そう、スカートなんてやっぱりおかしかったんだ。太ももに巻きついてそのまま膝へ、最後は足のうらまで。あれがないと、太刀打ちする術が──。



「ナマエ? どうしたの?」
「っ、クリスタ」
「ユミルのことなら気にしないで。ナマエにはあんなのが似合うんじゃない?」



 一体のマネキンをはさんだところにあるのは、可愛らしいふわふわ揺れるワンピース。あんな可愛いのは私には似合わない。
 似合うのはクリスタみたいな可愛い子だと言うと、天使は頬を染めて首を振った。謙遜する言葉を、白いジーンズがまぶしく照らす。



「クリスタにきっと似合うよ。ライナーだってクリスタのこと気になってたじゃない」
「え? で、でも、私がライナーと会ったのは高校で……ナマエとライナーは中学のときから付き合ってたんだよね?」



 おずおずと上目遣いで見られて、呼吸が止まった。
 出会いは中学。なぜかライナーは最初から私に優しくて、ベルトルトもアニも親切だった。そんなライナーを好きになるのに時間はかからなかった。告白して付き合って、それからずっと、クリスタと会ってからもずっと私を大事に愛してくれている。なにを言ってるの、私は。



「そ、だよね……ごめん。たぶんそんな夢を見たから混乱したんだと思う」
「なんだ、夢かあ」
「うん。すごく悲しくて死んでしまいたくて……でも文句は言わなかった。だって私、乙女だし」



 最後におちゃらけて言ってみせると、安心したように笑ったクリスタがのってきてくれた。ふたりともラブラブだもんね、という言葉はたぶん本心なのだろう。
 白いジーンズを見ても、もう何も湧き上がってはこなかった。その代わり、死にたくなるような悲しみと、恨みきれない愛があふれてくる。誰にぶつけるべきかもわからないまま、恋人の名前をつぶやいた。
 ライナー。いますぐ、会いたい。



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