私は時間があったら寝たい。やりたいこと、やらなきゃいけないことはたくさんあるけど、寝て体力を回復するのも大事なことだ。そう思いつつも実際はそこまで寝ているわけじゃないから、たぶんいける。頑張ったら二日くらい寝なくてもいけるはず。
 ぐっと拳を握りしめて、また私の世界のことを伝えたり、教科書を音読する作業に戻る。私にとっては当たり前のことも、この世界では聞いたことのないようなものばかりだ。コンクリートや車、電車、飛行機。それらを絵で描きながら説明するのは、かなりの時間がかかる。ひいひい言いながらハンジさんや技術班の人に話していると、誰かが部屋に入ってきた。リヴァイさんと、大きな男の人と、中性的な人。



「大柄なほうがミケ・ザカリアス。そのとなりが、」
「ナナバだ。よろしく」
「よろしくお願いします」



ふ たりに頭をさげると、ミケさんがよってきた。ふんふんとにおいを嗅がれて、なんとも言えない顔をされた。えっくさい? くさかった?



「そっそれとも昨日食べた焼き魚のにおいですか! 醤油とか味噌とか……く、くさかったら言ってくださいね! じゃないと私、人と会えません!」
「……嗅いだことのないにおいだ。これはたしかに違う世界の人間だな」
「ミケさんの鼻すごい……!」



 しかも背が高い。私もできるかもしれないと、ふんふんと鼻を動かす。リヴァイさんのほうから甘いにおいがした気がして顔を上げると、何かを差し出された。低い声でさっさと受け取れと言われて受け取る。それは、みんなが着ている制服だった。



「わあ! 制服だ」
「いつまでもそんな格好だと目立つ。さっさと着替えろ」
「ありがとうございます!」
「礼ならエルヴィンに言え」
「はい! これ、かっこいいなあって思ってたんです。ええと、このベルトもつけるんですか?」
「それをつけないと兵士じゃねえ。使えなくてもつけてろ」



 そうは言われても、このベルトはどうやってつけるんだろう。リヴァイさんは早く着替えろとしか言わないし、こういうのは口で説明してもらってもわからない気がする。ナナバさんがやわらかく笑いかけてくれながら、ドアの向こうを見た。



「きみの部屋でペトラという女性兵士が待っている。手伝ってくれるだろう」
「ありがとうございます、さっそくいってきます!」



 制服を抱えて部屋をでて、自分の部屋へ急ぐ。いちおうノックして開けると、そこには年上のお姉さんがいた。ペトラさんですか、と聞くと、笑って私の名前を呼んでくれた。優しくていいにおいがする。



「ジャケットの下に着るものは私服で、なんでもいいの。でもあまり派手なものや肌が露出するもの、飾りがついたものや動きにくいものは駄目よ」
「制服のシャツしかないんですけど、大丈夫ですか?」
「新しい服を持ってきたから、それを着てみたらどうかしら」



 質素で荒い服は、こちらでは普通なのだろう。見ているとどこか懐かしく思えてくる服を着て、ベルトのつけかたを教えてもらう。一度では覚えられそうにないそれを何度か繰り返しつけてみて、なんとか頭に叩き込む。最後にジャケットをはおって一緒にさっきの部屋へ戻ると、ナナバさんが似合うと言ってくれた。



「へへー、ナナバさんありがとうございます。この服を着ているときは、できるだけ目立たないように気をつけます」
「当たり前だ。ところで……ソウジキとは、なんだ」



 ナナバさんの代わりに返事をしたリヴァイさんの声が、やけに低く真剣だったことを、私は疑問にも思わなかった。珍しくハンジさんがリヴァイさんを止めようとするのを見ながら、すぐに終わるという質問に答えていく。



「掃除機っていうのはこんな形をしていて、ここからゴミを吸い込むんです。ゴミはここにたまっていきます。どうやって吸い取っているかはよくわからないんです。ごめんなさい」
「存在を知ることが重要だと、エルヴィンも言っていただろう」
「あとは、ルンバっていう自動で掃除してくれるのもあるんですよ。丸い形で、ゴミを吸い取りながら部屋をゆっくり回って、掃除機いらずにしてくれるんです」
「ほう……」
「でも階段とかは無理なんじゃないかな。あと、汚れはとってくれなかった気がしますし」
「ほう」
「ねえリヴァイ、もういいでしょー」
「こいつにも休憩が必要だ」
「休憩させてないじゃん」



 ペトラさんは慣れた様子でお茶をいれているのから察するに、この話はまだ終わりそうにない。リヴァイさんはなにかを思い出したように、後ろからなにかを取り出した。どこにしまっていたんだろう。



「疲れているだろうと、エルヴィンからクッキーの差し入れだ」
「わあ! さっきの甘いにおいはこれだったんですね!」



 ペトラさんがちょうどお茶を入れ終わって、みんなの前に置く。お茶とクッキーなんて、とっても素敵なティータイムだ。
 かなり甘さが控えめはそれを、ミケさんが食べる前にふんふんと嗅ぐ。しかも入ってるものをつらつらと言い当てるものだから、ミケさんの鼻って犬並みなんじゃないかと笑ってしまった。いいなあ、私もそういうのしてみたい。
 ふんふんとハンジさんを嗅ぐと、ふわっと石鹸のにおいが漂った。そういえばハンジさんって、結局性別はどっちなんだろう。



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