モブリットさんが出て行ってから、私とハンジさんはベッドに腰かけて様々なことを試してみた。まずは文字で会話をしてみたけど、私の書く文字とハンジさんの書く文字が違って通じなかった。つぎに学校の出し物でした、世界で一つだけの花の手話振り付けを歌いながら披露したけど、ハンジさんには伝わらなかった。絵で意思疎通するのは、私の絵がへたで失敗。
 仕方ないのでふたりでポッキーを食べていると、話を聞いたらしいエルヴィンさんとリヴァイさんがやってきた。



「ナマエが話せなくなったと聞いたんだが、本当か?」
『エルヴィンさん、すみません。どうしてだか話せなくなってしまって……』
「おい。原因はなんだ」
「それがわからないんだよー。いまのところ睡眠が原因だと思ってるけど、時間とか食べ物とか、疑いだしたらきりがない。戻る保証もないしね。私とモブリットでキスしても戻らなかったから、いま最初にキスした訓練兵を呼びに行ってるところだよ」
「……キスしたのか」
「え? うん」



 会話はわからなかったけど、リヴァイさんとエルヴィンさんの微妙ななまぬるい視線で、なにを話しているのかがわかってしまったような気がする。ソファにふたりが座ったところで、ポッキーをふたりに差し出した。首をかしげるふたりに、一本取って食べてみせる。



「これすっごいおいしいんだよ! ふたりも食べてみなよ!」
「いらねえ」
『これ、ポッキーゲームもできるんですよ! はい、どうぞ』



 エルヴィンさんが一本抜き取って、口にいれる。わずかに目を丸くするのを見て、なんだか嬉しくなって笑った。おいしいものは、人を元気にしてくれる。
 リヴァイさんは、エルヴィンさんの行動とひっきりなしに話しかけるハンジさんを見て、気が乗らないようにポッキーを抜き取った。ひとくち食べて、への字に曲げた口のままなにかを言う。言葉はわからなかったけど、捨てないでぽきぽき食べていく姿を見ると、それなりにおいしかったのかもしれない。テーブルにポッキーを置くと、あっという間になくなってしまった。ちなみにリヴァイさんはハンジさんに続いてよく食べた。

 そのまま3人は、ああでもないこうでもないと話し合いを始めてしまった。真剣な空気に日本語での発言権があるわけもなく、ひとりで原因を探ることに専念した。柔軟をしてみたり目をふさいでみたり耳をふさいでみたりしたけど、効果はなし。疲れてベッドに腰掛けると、部屋にノックの音が響いた。連れてこられたのは、昨日キスしてしまった男の子。まさか……まさか。



『っハンジさん! まだ諦めてなかったんですか!ひどいです、付き合ったこともない乙女のくちびるをほいほいと汚すなんて、それでも女……男……オカマなんですか!』
「おい、怒ってるぞ」
「ははは、ナマエは怒りっぽいなあ。さっきは泣いてたし、まるで子供みたいだ」
『頭をなでないでください!』



 ハンジさんに抗議するが、言葉が通じないから聞き入れてもらえない。通じても聞き入れてもらえるかというと、やっぱり怪しいところだけど。
 ぽかぽかとハンジさんを叩くが、笑われて両手をうしろに拘束された。え、ちょっと待って。男の子が青ざめながらエルヴィンさんたちと話すあいだ、味方がいないか必死に探したけど、今回ばかりはモブリットさんも助けてはくれないようだ。ふるふると首をふるけど、話が終わったらしい男の子は、青ざめたまま私の肩に手を置いた。ぎりぎりと掴まれて痛い。



「ああくそっ……最悪だちくしょう……」



 近くにいる私ですら、なんて言ってるかわからないほど小声で、たぶん毒を吐きながら男の子の顔が近付いてくる。くちびるがふれるかふれないかのギリギリのところまで近付いた後頭部をハンジさんが叩いて、くちびるが当たった。痛い。



「いった……! ハンジさんなにするんですか! これキスっていうよりただの事故ですよ!」
「ナマエ! 話せるようになってるじゃないか!」
「……え? あれ、本当だ」



 みんなの言葉も通じるし、文字も読める。集まってきた3人にお礼を言ってお辞儀をして、男の子に向き直る。これはもう迷惑をかけているとか、そういう次元の話ではない。



「あの、遅くなったけど、名前を聞いてもいい?」
「……ジャン・キルシュタインだ」
「ジャンくん。私はナマエ・ミョウジといいます。本当にごめんなさい。なんて謝ったらいいか……」
「兵士は命令に従うものだ」



 それっきり口を閉ざしてしまったジャンくんはとても不機嫌そうで、申し訳なくてたまらなくなる。なにか聞いてみようか、なにを聞こうかと考えているあいだに、興奮したハンジさんが詰め寄ってきた。近い。



「ねえナマエ、なにか変わったところはある!?」
「いえ、特には……」
「もしかしたら、ナマエと私たちの体は、どこか違うところがあるのかもしれない。ねえ隅々まで見ていい? いいよね?」
「えっ!?」
「ああ、恥ずかしいの? なら私も裸になるから大丈夫! ねっナマエ、ふたりでちょっと裸になってみよう! 隅々まで見て実験するだけだから! ね!」
「分隊長落ち着いてください!」



 モブリットさんがうしろからハンジさんを押さえてくれている隙に距離をとる。こ、怖い……いくらハンジさんが女……男……オカマ? だとしても、裸を隅々まで見て実験されるのはごめんだ。
 ハンジさんはまだ興奮しているようで、押さえられながらも私に質問をしてくるのをやめはしない。



「そうだ、ナマエって処女?」
「はい!?」
「処女って大切なんだよ。それによって神秘的な力を発揮する類の言い伝えが残っているし、ナマエの教科書にもそれらしき人がいただろう? これは大事なことなんだよ! もし処女なら、性行為をしたらこの神秘が失われてしまうかもしれない。これは一大事だ!」
「ハンジさんの……ハンジさんのばかあ!」



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