「あっユミルちゃんだ。おはよー」
「おう、はよ」



 調査兵団に入って初めての壁外調査に行くまで、ナマエとはよく会った。ナマエは調査兵団にいるから当たり前なのかもしれないが、毎朝会うだけの生活をしていたからまだ慣れない。
 ユミルはナマエに「ユミルちゃん」と呼ばれることを気持ち悪がっていたが、ナマエが笑顔で頷きながらも呼び方を変えなかったため、もう抗議することは諦めていた。一応だが向こうの立場は上司だし。



「ジャンくんも、おはよう。今朝も無事に言葉が通じています」
「はよ。寝癖ついてんぞ」
「えっ!?」



 頭の後ろでぴょこんとはねている髪は、自分では確認できない位置だ。水筒の水をすこしだして寝癖をなおしてやると、ナマエはだらしなく笑った。こいつの笑顔はだいたいだらしない。



「ジャンくん、ありがとう」



 ナマエのくちびるは今日も赤い。思わずキスしそうになる衝動をなんとか抑えて、出来るだけ普通に返事をした。
 キスなしにどれだけ言葉が通じているか実験しているらしいが、これで三週間目だ。三週間だぞ、三週間。恋人になるまえは散々してたっつーのに、恋人になったとたんお預けだなんて、ハンジ分隊長も人が悪い。
 ナマエはにこにこと笑いながら、なにかを思い出したように手を叩いた。訓練がはじまるまであとすこし、暇つぶしにとみんながナマエに注目する。



「昨日ね、部屋にすごく大きな虫がいたんだよ! それで首を噛まれて」
「へえ? 首を、大きな虫に?」



 ユミルがにやにやしながらナマエの肩に手を回す。オレを見るのは勝手だが、関係ねえぞ。言っとくけど。おいアルミン、心なしか顔を赤くすんじゃねえよ。



「びっくりして部屋から追い出そうとしたんだけど」
「へえ、虫をねえ?」
「思わずちょっと叫んだのをミケさんが聞いていたらしくて、助けてくれたの! 立体機動の練習の帰りで、虫をスパッと!」



 ユミルが眉を寄せてナマエを見て、それから残念なものを見るようにオレを見た。だから関係ねえって言ってんだろ。口には出してねえけど。



「お前……よく生きてたな」
「オレじゃねえよ」
「ミケさんかっこよかった! 私もあのくらい上手になりたいなあ」
「フラれたんじゃね?」
「うっせーよ。オレはフラれてもないし虫でもない」



 だがしかし、ナマエの口からほかの男の名前がでてくるのは聞き逃せない。しかもかっこいいという言葉付きで。
 向こうからネス班長が歩いてくるのを見て、ナマエに近寄る。お前ら、にやにやしながら見てくんのやめろ。



「そういうときは次からオレを呼べ」
「大丈夫だよ、次はひとりで虫をやっつけるから!」
「そうじゃねえよ。お前、トロスト区の扉が破壊されたときも、大丈夫って言って死にかけたじゃねえか。今だって勝手に動いてるし」
「散歩程度ならいいって……言ってたような」
「さっさと部屋に帰って休め。いいか、次からオレを呼べよ。ナマエの部屋に行く口実がほしいんだからな」



 ナマエがぽかんとオレを見ているあいだにネス班長がやってくる。まだ飲み込めていない頭をなでて、整列のために並んだ。ああくそっ、顔が熱い。



「ジャン、さっきのかっこよかったぞ」
「うるせえよライナー。口が笑ってんぞ」
「顔赤いな」
「うるせえ」



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