怪我で体力がないところで泣いたりキスしたりするのは、体がとても疲れるらしい。新たな発見だ。
 いつのまにか寝ていたらしく、うるさい声にまぶたをむりやり開けると、ハンジさんの顔のアップが目に入った。思わずかたまる私を見て、ハンジさんがうんうんと頷く。ハンジさんのうしろで、リヴァイさんが顔をしかめて仁王立ちしているのが、なんとなく怖い。



「よかった、本当に生きてるね!」
「ハンジさん、驚かさないでください……。壁外調査はどうなったんですか?」
「壁が破壊されたから、戻ってきたよ。そっちこそどうなんだい? こんな傷を負って」
「……おい」



 ハンジさんの言葉をさえぎって、低く機嫌の悪い声が聞こえてくる。リヴァイさんはしかめっ面で、思いきり私を睨んでいた。もし「俺が教えたのになんてザマだ。回転200回」と言われても、素直に謝って回り続けるしかない。



「……おい。いま起きたばかりなのに、どうして言葉が通じるんだ」
「あれっ、本当だ! 死にかけたからかな? それともキス以外のことした?」



 ハンジさんが驚いて聞いてくるのに、さっきのことを思い出して顔が勝手に赤くなる。いまさっきまで寝ていたのに、たしかに言葉が通じている。部屋を見回しても、文字がきちんと読めているし、もしかしてさっき寝てなかったのかな? でも意識はなかったし……。
 ハンジさんは赤いままの私を見て、驚いたように肩をすくめた。



「死にかけたあとにセックスするなんて、若いってすごいなあ」
「はあ!?」
「違います! ハンジさんのすけべ!」
「じゃあ何したの」
「ちょっと……キスを」



 間違ったことは言っていない。いままでのより、ほんのちょっぴり体力を消耗するようなキスをしただけだ。ハンジさんのすけべな妄想のようなことはしてない。絶対に。



「もしかしてディープキス? じゃあ、必要なのは唾液だったのかな。唇に付着した唾液では12時間しかもたなかったけど、直接唾液を摂取すれば、」
「おいメガネ」
「特定の人物でなければいけないというのはナマエの心に関係あるのかな。私がしても効果があるのか実験したいところだけど、また泣かれるのは嫌だし効果がきれないと実験もできないし」
「気持ち悪いんだよクソメガネ。行くぞ」



 リヴァイさんに引きずられてでていくハンジさんを、ジャンくんとふたりでぽかんとしながら見送る。気を遣って……くれたのかな? たぶんそうだ。だってリヴァイさんは、とっても優しいもの。
 ジャンくんと顔を見合わせて、思わず笑う。自然に近付いてきた顔に目を閉じて、くちびるにもう慣れたやわらかさを感じて、もう一度笑った。



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