今日は訓練兵団の解散式であり、調査兵団が壁外調査に出発する日でもあった。解散式までは、荷物の整理などをする自由時間らしい。内地に行くんだと、はやくも荷物を綺麗にまとめていたジャンくんは、私が調査兵団のみんなに会いにいくと知ってついてきてくれた。
 ふたりで馬に乗って目的地についたのは、出発のすこし前だった。すこししかできなかったお守りを持って、みんなを探して歩く。



「エルヴィンさん! 気をつけてくださいね。これ……日本のお守りなんです。よかったら」
「これは……きみが作ってくれたのか?」
「はい。下手くそですみません……」
「いや、すごく嬉しいよ」



 もしかしたら読めないかもしれない「エルヴィン・スミス」という刺繍をなでて、エルヴィンさんは笑ってくれた。親戚のおじさんがいたら、こんな感じなのかもしれない。
 そのまま横にいるハンジさんとミケさんにもお守りを渡した。



「私が下手くそなせいで時間がかかって、分隊長のぶんくらいしか作れなかったんです。ハンジさんとミケさんの名前が刺繍してありますけど、班全員ぶんのお守りですから」
「うん、ありがとうナマエ。それにしても刺繍下手くそだねえ」
「うっ……!」
「いや、いい。読める。……ミケ・シャカリアス……?」
「ザカリアスです! 綴り間違えないように、なんども確認しました!」
「あっ、じゃあ単純に下手なんだね」
「ハンジさんのばかあ!」



 ハンジさんは出発前なのに、はははと朗らかに笑っている。ミケさんは下手くそな刺繍をなでて、においをかいで、静かに胸にしまった。それから頭をなでてくれて、大事にすると言ってくれた。ハンジさんはミケさんの優しさを見習ったほうがいい。
 ハンジさんがお守りをしまうのを見ていると、リヴァイさんがこっちに来るのを見つけた。まずは深々と頭をさげる。



「お守りのお金、ありがとうございます。全員ぶん作ってないので布はまだ余ってますけど、お菓子と夜食はぜんぶおいしく私のお腹に入りました」
「太るぞ」
「これ、お守りです。……帰ったら、また立体機動の練習を見てくださいね」
「下手すぎて教えることがねえ」
「すこしは回れるようになってきたんですよ! だから……だから」



 このなかの誰かともう話せなくなるかもしれないなんて、想像するのすら恐ろしい考えに、頭のなかがじわじわと侵食されていってしまう。泣きそうになる私の前にあらわれたナナバさんは、笑って頭をなでてくれた。



「それ、お守り?」
「はい。ナナバさんのぶんと、あとゲルガーさんとペトラさんと……みんな……みんな、怪我してもいいから、帰ってきてくれます、よね……?」
「それは保証できない。だけどみんな最善を尽くしているよ。ナマエは祈っていてくれ。それだけで、オルオなんかはやる気がでるかもな」



 もう出発の時間だ。慌ててお守りを渡して回って、みんなが出発するのをただ眺めていた。
 ペトラさんが途中で振り返って、手を振ってくれた。あとのみんなは振り返らず、まっすぐに進んでいく。それが眩しくて、信じたいのに心配で、横にいてくれたジャンくんの肩に頭を預けた。



「大丈夫、だよね……みんな帰ってきてくれるよね。できるだけ少ない犠牲で、きっと……」



 ジャンくんはなにも言わなかった。ただ黙ってずっと横にいて、手を握りしめてくれていた。



・・・



 その夜、送別会が開催された。キースさんと話してお疲れ様を言ってから、私も送別会に行ってみることにした。私服での参加らしいけど、私服なんてないから、学校の制服を着た。スカートなんて久しぶりだ。
 うきうきしながら会場のドアを開けると、中からエレンくんとジャンくんの言い争いが聞こえてきた。最後まで喧嘩しっぱなしのふたりは、どうにか早めに喧嘩を終わらせることが出来たらしい。静かになってしまった部屋は入りにくいけど、行かないわけにもいくまい。



「ジャンくん、また喧嘩したの?」
「ナマエか……ってぶふっ! なんで足だしてんだよ!」
「私服で参加って言われたから。調査兵団の服以外、この制服しか持ってないんだ。制服、可愛いでしょ?」



 くるりと回ってみせると、ジャンくんが口を拭きながら真っ赤になってお父さんみたいなことを言ってきた。スカートを伸ばせだとかはしたないだとか。横にいるマルコくんも顔が赤いし、そういえばみんなスカートの丈が長いから見慣れていないのかもしれない。



「丈はこれ以上伸びないんだ。それよりジャンくん、卒業おめでとう。マルコくんもおめでとう。本当によかった」
「ありがとうナマエ。座ったら?」
「うん、おじゃまします」



 マルコくんがすすめてくれた椅子はジャンくんの隣で、おとなしく腰かける。ジャンくんはまだ口をふきながら、ぶつぶつと文句を言っている。もしかしたら酔ってるのかなあ。



「くそっ……酔いが醒めちまった。どうしてこう死にたがりが多いんだよ」
「ジャンくんは、ミカサちゃんが調査兵団に入っちゃうから寂しいんだね」
「ばっ……! んなこと言ってねえだろ!」
「離れちゃうもんね。大丈夫、ジャンくんならうまくいくよ。応援してる」



 がんばって応援したのに、ジャンくんはなにも言わなかった。微妙な顔をされて、なんだか泣きたくなる。そんな顔しなくてもいいのに。
 その夜ほろ酔いになった私は、ベッドのなかですこし泣いて、調査兵団のみんなの無事を祈ってから、まるくなって眠った。



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