「練習はしたな? じゃあその通りにやれ。教官が練習場での立体機動を許可したということは、それができるだけの力があるっつーことだ。わかったな」



 ジャンくんの言葉に頷いて、馴染みつつある立体機動をなでてから刀を握りしめた。
 木が密集しているこの森は、立体機動を使うのに最適な条件が整っているらしい。たしかにワイヤーは刺しやすいけど、視界が悪いような気がしてならない。この程度の障害でつまずいているようじゃ、兵士にはなれないということだろうか。



「教官からお前のこと頼まれてんだ。ゆっくりでいいから怪我すんなよ」
「うん!」



 卒業まであと二ヶ月ほどらしく、すべての教科や実技は仕上げの段階に入っている。今日は自由に飛んでいい日で、私を教えるようキースさんがジャンくんに言ったらしい。
 まわりにちらほらとみんなの姿が見えるなか、片手をあげてからワイヤーを木に向かって突き刺した。はずれた。無言で巻き取って、もう一度突き刺す。



「やった! 今度はできたよ!」
「そのままこっちの木に飛び移れ。オレがいる場所だぞ」
「うん!」



 勢いよくいこうと操作装置を握りしめると、思ったよりガスがでた。ぶわっと体が前に押し出される感覚がして、必死にジャンくんのいるところに行こうともがく。
 でも高さがたりずに、ジャンくんのいる木のはるか下を通り過ぎていった。通り過ぎて、こんどは後ろ向きにいま来た方向へ戻っていく。これは……ターザン!



「あ……あ〜ああ〜!」
「何だその歌は! こっちに来い!」
「だってターザンするならこれを言わないと!」
「ターザンじゃなくて立体機動だ!」



 もっともな言葉に、揺れながら頷く。それにしてもこんなに揺れると、気分が悪くなってくるぞ。
 ぶらぶら揺れている私を助けてくれたのは、いつぞやの背の高い男の子だった。



「あっこのあいだの! あのときはごめんなさい、ハンジさんに嫌なこと言われなかった? 大丈夫?」
「君こそ、巨人とキスしていない? あれから心配で……」
「うん、大丈夫! あの、名前を聞いてもいい?」
「僕はベルトルト・フーバーだよ」



 なんと覚えにくい名前なんだ。ちなみにベルトルトくんと一緒にいるのがライナーくん、金髪の子がアニちゃん、ポニーテールの子がサシャちゃんだ。
 ベルトルトくんに最初にいた木のところへ連れて行ってもらって、もう一度ジャンくんのいる木に行こうとワイヤーを突き刺す。今度は勢いよくいこうとガスをふかし……すぎた。



「おわっ! ……っぶねー!」
「あっ、ありがとうジャンくん」



 木のうえを飛び越えそうになって着地失敗しかけたところを、なんとかジャンくんに掴まえてもらう。近くで見ていたマルコくんが飛んできて、なぐさめてくれた。
 すごく怖いんだけど、本当にみんなこれを軽々と意のままに操ってるの? 本当に?



「うっ……ジェットコースターより怖かった……ジェットコースターより怖かった!」
「二回言うほど怖かったんだね」



 マルコくんが頭をなでてくれるのに頷く。ジャンくんは横で呆れながら私を見て、それから横を通った赤いマフラーの子に目を奪われた。
 あの子はミカサちゃんと言って、とても優秀な子らしい。ジャンくんが好きになるのもわかるなあ。



「あの、ジャンくん、私のことはいいから、行きたいところに行っていいんだよ?」
「教官に任されてんだから、行けねえだろ」
「でも……キースさんには、私から言っておくから」
「いっちょまえに気ぃ遣ってんじゃねえよ」



 ジャンくんが頬をつねってくるのに、痛いと抗議するがやめてもらえなかった。どうやら頬を伸ばすのが楽しいらしい。悪ノリしたマルコくんまで反対の頬をつねりだして、立体機動そっちのけになってしまった。



「うわあ、ナマエの頬ってすごく柔らかいんだね。伸びる伸びる」
「まるふぉふん、いひゃい」
「どこまで伸びるんだ、気持ち悪いな」
「ひゃんふんのふぁふぁ」
「どれくらい伸びるんだ?」
「ライナーも引っ張るか?」



 いつのまに私のほっぺたをつねる会が発足したんだろう。入れかわり立ちかわり引っ張られたせいで赤くなった頬をふくらませてジャンくんを見る。私だって気を遣うくらいするのに、どうして素直に受け取らないの。



「いいから、出来るようになるまでやるぞ。じゃなきゃリヴァイ兵長に削がれるんだろうが」
「……うん。ジャンくん、ありがとう」
「おう」



 そっけなく視線をそらしながら言うジャンくんの顔は、はじめて見たときよりやわらかい。ジャンくんのうしろでマルコくんが微笑んでいるのが見えて、やる気がでてきた。よおし、やるぞお!



「えいえいおー! ナマエ、いきまーす!」
「ばっ……まずワイヤーを刺せ!」



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