ベッドの二段目の、限られた人数しか寝られない天井の近い場所。そこに私とジャンとマルコ、ライナーとベルトルト、エレンとアルミンがいた。エレンとアルミンは、ライナーたちに立体機動のコツを教えてもらって以来よく話しているらしい。しょっちゅう喧嘩しているジャンとエレンは、いまは大人しくみっちりと狭い空間につまっている。
 突然の呼び出しに誰かが話すのを待つが、思い当たる節がない。今日は水に香りのいい花をいれたおかげで、動くたびに髪からいいにおいがした。みんな顔を見合わせて誰が話すか探り合っている。
 そういえばこうしてランプの明かりのなかで見ると、自分の肌の白さが際立った。赤くなるだけで日に焼けない肌は、意外と白いライナーやアルミンの肌と同じくらい色白だ。横に座るアルミンに腕を近づける。アルミンのほうがすこし白い。



「アルマ(名前)? どうしたの?」
「アルミンって色白だと思って。綺麗な金髪だし、きっと銃を持ったら似合うよ」
「アルマ(名前)、そこまでにしとけ」



 はてなを浮かべるアルミンがこれ以上混乱する前にと、ジャンがさっさと話を打ち切った。頭のいいアルミンなら、この感覚もわかってくれると思うんだけど。
 銃の話をするまえに、ライナーが口を開いた。真剣な色をしたひとみは、金色にも茶色にも見える。ランプの灯りが揺れるのと一緒に色も変わって、とても綺麗だ。



「ここにいる奴らは大丈夫だ。アルマ(名前)、何か悩みがあるなら言ってくれ」
「アルミンと銃は似合うと思うんだけど」
「それ以外だ」



 ライナーの言葉にうんうんと唸って、ようやく思い出す。私は男になっていることを悩んでいるんだった。忘れたわけじゃないけど、何かに熱中したら何かを置き去りにしてしまう。これはもうどうにもならない性格だ。
 でもこれは言えないし、開拓地行きも、家に帰るのも嫌だ。黙り込む私を見て、ライナーがそうっと切り出す。



「例えば……誰かに襲われたとか」
「襲われた……あ、昨日ジャンに」



 視線がいっせいにジャンに向く。何言ってんだと怒鳴るジャンを、ライナーとエレンが押さえ込んだ。ベルトルトが大声をだす口をふさぐ。



「ジャンの寝相が悪くて起きるんだよ。昨日は足蹴り、一週間前はパンチ」
「……それだけか?」
「まだあるよ。アッパーにみぞおち」
「寝相以外で」
「ないけど」



 ジャンが解放された。ぜえぜえと息を整えたジャンは、目を釣り上げて詰め寄ってきた。マルコの、ボリュームをおさえてと言う声は聞こえていないみたいだ。



「アルマ(名前)! まぎらわしいこと言うんじゃねえ! 寒いからってくっついてくるのも、俺は迷惑してんだぞ! 布団取りやがって」
「だって寒いじゃない」
「俺だって寒いんだよ!」



 ジャンが手負いの猫のように、フーっと毛を逆立てて怒る。コルクの色をした髪はやっぱり綺麗だ。ジャンに似合うのはどんな銃だろう。最新のものよりすこし前の、筒がすこし太いものが似合う気がする。



「ジャンは直径何センチがいい? 私としては9年前の、」
「あーもういい、わかった。俺は何も言わねえからアルマ(名前)も黙れ」
「わかった、決定したら報告する」
「いらねえ」



 銃や大砲のことを考えると心が弾んだが、重しをつけたようにすぐに沈んだ。もし女だと言って、それらがさわれなくなったら。考えるだけで恐ろしい未来は、ライナーやベルトルトが殺意をもって襲ってくるのと同じくらい、実現してほしくないものだった。もし死ぬなら、大砲のなかに詰まって弾として発射されて死にたいのに。
 考え込んでいた視界に、大きな手が入ってきた。ライナーの手だ。頭をなでられ、真剣な顔で見つめてくる目を見つめ返す。



「もし相談したいことがあったら、すぐに言ってくれ。力になる」
「じゃあ、今日ライナーと寝たい」
「ぶふっ!」



 ライナーが鼻水を吹き出した。すまん、と謝りながら慌てて鼻をかみ、もう一度言うように促してくる。聞こえなかったのかと、今度は理由もつけてしっかりはっきり言った。



「ジャンは寝相が悪いから、一晩でもいいからゆっくり寝たい」
「そ、そうか」
「それに私、ライナーが好きみたい。そばにいると安心する。だから今日、一緒に寝たい」



 ライナーの目が丸くなり、口を開けて何かを言おうとして閉じた。エレン以外みんな驚いていて、どうしてなのかわからずエレンを顔を見合わせる。私と同じ気持ちらしいエレンは、不思議そうに聞いた。



「どうしたんだよ。一緒に寝るくらいいいだろ」
「いや、いいんだが……そうだよな、アルマ(名前)は男だ」
「そうだよライナー、アルマ(名前)は男だ」
「アルマ(名前)は男だし、問題ないよね」
「男だよね、アルマ(名前)?」
「戸籍はそうなってる」
「じゃあ男だ!」



 そそくさと解散したあとには、私とライナーが残るばかり。ベルトルトのベッドで寝ていいと言われ、さっそく布団に潜り込んだ。もうすぐ消灯時間だ。
 ライナーもベッドに入るように言うと、しばらくして横になった。腕を伸ばせばさわれる位置にライナーがいることがなんだか嬉しくて、狭いベッドのなかで出来るだけライナーに近寄った。



「ライナー、相談したら聞いてくれる?」
「ああ」
「今度言うかもしれない。そのまえに、今日くっついて寝てもいい? 寒い」



 いつもなら冷えた足を勝手にジャンの布団に突っ込むが、今日となりにいるのはライナーだ。ジャンほど体温が高いかわからないし、寒がりかもしれない。ライナーが頷いたのを確認して、そっとライナーの布団に半分体を入れる。あたたかい。
 今日は早く寝られそうだとまぶたを閉じると、ちょうど鐘がなった。もう半分寝かけている意識のなか、ライナーの腕を抱き込んで眠りに落ちる。今日はいい夢をみられそうだ。

 
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