アルマ(名前)という人物は、一言で説明できないようで実はできるんだと、最近思うようになった。
 まず、こんなふうにアルマ(名前)がライナーと一緒に寝たがるのは、不安定なとき。それ以外は、蹴られてもジャンの横で寝たがるから、ジャンのこともとても大切だと思っていることがわかる。
 そしていま僕たちは、動揺と困惑と疑惑と……様々な感情のあいだで揺れている。誰かが起こさなきゃいけないのに、こういうときに限ってベルトルトはいない。それが頭に浮かんでる仮定を裏付けるようで、なんだか頭を抱えたくなった。



「……アルミン。お前、いけよ」



 ジャンに言われて、どうして僕がと言いたくなった。こういうときのジャンは、思い切りがいいか適役に任せるかの二択だ。たぶん、友人のこんな場面に遭遇して、いつもどおりでいられる自信がないんだろう。僕もだけど。
 もう起きなきゃ間に合わない時間で、そうなったら連帯責任で僕ら全員が怒られる。ごくりと仮定を飲み込んで、珍しく寝坊しているライナーと、ライナーの腕のなかで眠っているアルマ(名前)を揺さぶった。



「ライナー、アルマ(名前)、おきて。もう鐘が鳴ったよ」



 ライナーが寝返りをうつと、アルマ(名前)も一緒に移動した。まるで熱を求めてさまよう猫のように。
 もう一度起こそうとして、ふっとアルマ(名前)の腰あたりが目に入った。……血が、ついている。アルマ(名前)のお尻あたりに血が。



「うっ、うわあああ!」



 慌てて毛布でアルマ(名前)を隠して、いま見たことを忘れたほうがいいのか気遣ったほうがいいのか考えて、それより先にするべきことがあると首を振る。いまのを見たのは、多くて数人だ。早く、人がこれ以上集まる前に起こさなきゃいけない。
 乱暴にふたりを揺すると、ライナーが目を開けた。覗き込んでいる僕たちを見て、ハッとして時計を見て、まだ眠っているアルマ(名前)を確認して起き上がる。



「すまん。寝坊した」
「いいよ。それよりライナー、アルマ(名前)が」
「ああ、起きろアルマ(名前)」
「んんー……」



 アルマ(名前)が身じろぎして、寝ぼけた声を出す。そのあと珍しくばちっと目を開けたアルマ(名前)は、自分の腰あたりをさすってから起き上がった。こんなに寝起きがいいなんて珍しい。
 アルマ(名前)は寝起きでぼさぼさな髪のままライナーを見て、枕元に置いてあった荷物をあさった。僕たちのことは目に入ってないみたいだ。



「ライナー、ごめん。布団を汚してしまった」
「よだれか?」
「違う、血。帰ってきたら洗うから、待っていてほしい。本当にすまない」



 ──空気が、とまった。
 僕が必死に隠したことをあっさりと暴露し、アルマ(名前)は着替えの服を持って部屋を出て行ってしまった。残されたのは唖然とするライナーと、いらないことばかり考えてしまう僕たちと、血のついた布団のみ。横でジャンが頭を抱えて座り込んだ。



「ふざけんなよライナー! ヤるならここじゃなくて外とか空き教室でヤれよ! あーっくそったれ、なんで男同士のヤったあとなんか見なきゃいけねえんだ!」
「違うジャン、それは誤解だ! 俺とアルマ(名前)は、そんな関係じゃない!」
「どこがだよ! お互い好きで、アルマ(名前)は壁のなかにいる人類すべてよりライナーが好きなんだろ! それで一緒に寝てるって、どう考えてもそんな関係だろうが!」
「違う! これは……その、うまくは言えないが、違う。俺とアルマ(名前)は……はっきりした関係じゃないんだ」
「……やっぱりベルトルトと三角関係なのか?」
「違う」



 ライナーははっきり否定したあと、申し訳なさそうに謝ってきた。騒がせたこと、起こさせたこと、寝坊したこと、アルマ(名前)のことをこれ以上言う気がないこと。それらをひっくるめた謝罪に、ジャンもそれ以上追求するのをやめた。そろそろ本当に動き出さなければ、走らされるだけじゃ済まなくなる。
 微妙な空気で身支度やベッドを整えているあいだに、アルマ(名前)が帰ってきた。すこしマシになってるけど、まだ毛先がはねている黒髪を揺らし、まっすぐにライナーのところへ向かう。



「ライナー、すまない。今晩から私の布団を使ってくれ」
「いや、いい。血は落とした」
「……どうして」



 アルマ(名前)が珍しく口ごもって、床を見る。僕ではまだわかりかねる行動を、ライナーはわかったらしい。大きな手がアルマ(名前)の頭に乗せられて、遠慮がちに動く。



「俺は気にしていないし、そういうこともあると思ってる。……アルマ(名前)は、俺がアルマ(名前)を受け入れたと思っているらしいが、それは違う。逆だ。アルマ(名前)が俺たちを受け入れてくれたんだ」
「そんなことはない。最初はライナーたちだった」
「俺たちはアルマ(名前)に感謝している。これくらい、いくらでも頼ってくれ。アルマ(名前)の力になりたいんだ」
「恥ずかしいものは恥ずかしい」
「ベルトルトの股間をつついておいて、よく言う」



 ライナーが笑って、アルマ(名前)が怒ったように少しだけ眉をよせる。それを見たライナーがまた笑って、なだめるように頬をなでた。アルマ(名前)は目を閉じて気持ちよさそうに受け入れてから、綺麗になった布団を見る。



「だが、駄目だ。今晩からライナーは私の布団で寝てくれ」
「……ああ。わかった」



 ライナーの真顔の裏に隠れた考えは、僕でもわかる。好きな人がいままで寝ていた布団なんて、どう計画を練ったってすんなり手に入るものじゃない。それにアルマ(名前)は案外頑固で、自分の意見を聞き入れてくれるまで引かない一面がある。それもひとつの理由だ。
 こうしてライナーは、アルマ(名前)の布団を手に入れた。ジャンのドン引きした顔と引き換えに。

 
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