どれだけそうしていただろう。ゆっくりと視線をあげると、近いところに顔があった。ライナーのなにかを含んだ視線を受け止めて、何を伝えようとしているかを探る。じっと見つめて答えが見つかる前に、ライナーが何かを思い出したように声をあげた。



「女なのにジャンにくっついて寝たり、風呂場で無防備に寝たり、そういえば着替えはどうしてたんだ! 女だろう!」
「着替えは布団のなかでしてたよ」
「女という自覚を持て!」
「そんなの持ったら気付かれるんじゃない? それに、男女ってそこまで区別がつけられるものじゃないと思うんだ。女のまえに兵士になったのだし、」
「わかった、そこまでだ」



 ライナーが慣れたように諦めたように遮る。それから3人で部屋まで戻って、あまりジャンにくっつかないようにと念を押されてから、それぞれのベッドへと戻った。ジャンが慣れたようにおかえりと言ってくれて、その顔を見つめる。
 私は人類よりライナーを選んだけど、ジャンやみんなが死んでしまうのは嫌だ。嫌だけど、もう選んだ。私はその時になったらどうするのだろう。ジャンの顔を見れば見るほど馬に見えてきて、思わず頬をなでる。



「なんだよ」
「四つん這いになったらもっとそう見えるかも。ちょっと鳴いてみてくれる?」
「はあ?」
「そうだ、今日からジャンにくっついちゃいけないんだって。残念だけど、足だけくっつけることにする」
「足もくっつけんな。冷たいんだよ。っつーか誰かに言われたのか?」
「ライナーに」



 ジャンの動きが止まった。おそるおそるというように見られて、首をかしげる。さらに馬のような顔になることを言った覚えはない。



「ずっと気になってたんだけどよ……ライナーと付き合ってんのか?」
「付き合う? なにに?」
「聞き方を変える。ライナーをどう思ってんだ」
「……ジャン16人分くらい好き、かな」
「……なんだそれ」



・・・



 次の日の朝食時、いつかのようにアニが隣に座ってきた。挨拶をしてパンを食べていると、さっさと食べ終わったアニがまっすぐに尋ねてきた。



「ライナーとベルトルトから聞いたから」
「うん。アニのこと、びっくりしたよ」
「もう一度聞く。ライナーのこと、どう思ってるの」



 昨日ジャンに聞かれてから、ずっと考えていた。ライナーに対する思いは独自の感覚で構成されている。それを説明することは難しいけど、言わなければ伝わらない。最後のパンを噛んで飲み込んで、ゆっくりと言葉を選びながら口を開いた。



「……アニの世界って、何色?」
「は?」
「私の世界は、ずっとくすんだ鉛色だった。ここに来てから、ようやく楽しいとか嬉しいとか安心とか、そういうものを実感したように思う。その中心にライナーがいる。くすんだ鉛色の世界が、ライナーを中心に極彩色に染まっていくんだ」
「──あんた、それって」
「ライナーと出会って、はじめて空の青さを知った。花が綺麗なことも、夜は月と星がまたたくことも」



 いつのまにそこにいたのか、目を丸くして見つめてくるライナーに笑いかける。自分以上に大事なものなんてないと思っていた。好きという気持ちを知って、世界に色があふれて、一緒に眠る夜は夢もみないほど安心して体を預けることができる。



「だから私は、誰よりも何よりもライナーが大切なんだ。わかりやすく言えば、ジャン16人分の好き」
「最後のはわかりにくいけど」



 アニは顔をしかめながらジャンを見た。エレンと口喧嘩しているジャンは、確かに子供っぽくて感情をだしすぎるように感じる。あれでは、馬にまぎれて人類全滅から逃れることが出来なくなってしまう。
 アニはライナーへと視線を移し、金色の髪で目を隠すことなく私を見た。ライナーのうしろでベルトルトが息を呑む。



「つまりあんたは、ライナーが好きなんだね」
「うん。人類すべてと秤にかけて、ライナーを取るくらいには」



 それが偽りのない私の気持ちだ。肩の力が抜けて息をはくと、会話を聞いていたらしいミーナが、おそるおそるというように聞いてきた。ミーナのとなりでマルコが硬直している。



「つまりその……ライナーとアルマ(名前)、どっちが下なの?」
「下? なにが?」
「一緒に寝る仲なんでしょ? どっちが下なの」
「寝るときは私が下だよ。ライナーの腕が乗ってくるから、そういうことでいいのかな」
「ベルトルトはどうなの? ライナーと仲いいのに」
「ベルトルトは私の横だよ。ライナーと寝てしまって申し訳ないけど、たまにだから許してほしい」
「えっ……つまり……三角関係ってこと、だよね」
「待て最後のは違う! ミーナ、アルマ(名前)に聞くのはやめてくれ。わかってないんだ」
「最後以外は事実ってことね!」



 食堂が一気に大騒ぎになった。止めに入ったライナーが、もうどうにでもなれというように頭を抱えてため息をつく。ベルトルトが慌てて訂正しようとするものの、誰もきいていない。アニが憐れむようにライナーを見た。



「女子のあいだでは噂っていうより真実になってたし、もう手遅れだよ。ほだされるからこうなるんだ」
「……仕方ないだろう。放っておけないんだ」



 騒ぎは大きくなっていく。いつもなら教官が来るのに、今日はそれがなかったせいで誰も止める人はいない。よくわからないまま質問責めにあうのを、途中でライナーが救い出してくれた。
 私は人類より何よりライナーを選ぶけど、できることならこの日々が出来るだけ続いてくれるように願う。だってここは、私が夢見た場所だから。

 
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