コニーは一番大きな浮き輪、私はイルカの乗り物。それをしっかりと抱えながら、コニーは目を輝かせて振り返ってきた。



「プールだぜ!」
「プールだよ! 広い!」
「流れるプールがある! ウォータースライダーも!」
「二つあるらしいよ! ウォータースライダー!」
「行くか!」
「あっ待って、その前に準備運動しないと」
「おっそうだな」



 腰にセットした浮き輪をとって、コニーはプールサイドで準備運動を始めた。私もイルカを置いて準備運動をする。一連の会話を見ていたらしいカップルが、くすくすと笑いながら横を通りすぎていった。
 馬鹿にしているのではない、微笑ましい光景を見たような笑いに気付かず、コニーは長座体前屈をしていた。準備運動がいつから体力測定になったかはわからないけど、移り気なコニーにとっては自然な行為だったらしい。体が柔らかくなったと無邪気に報告してきたコニーは、数秒後にプールサイドにつけたお尻が熱いとさわぎはじめた。遅い。



「コニー、どれから行こっか」
「ここはやっぱり……」
「「ウォータースライダー!」」



 声を揃えて、にんまりと笑う。早くも出番をなくした浮き輪とイルカを係の人に一時見てもらって、わくわくと列に並んだ。どうやらこのスライダーは、専用の浮き輪に乗って滑るらしい。二人乗りの浮き輪を選択して、コニーが前に乗った。



「バンザイしながらすべるぞ! 名前もやろうぜ!」
「私はピースする!」
「んじゃ、そうすっか」



 わくわくとどきどきと一緒に、浮き輪が水流に浮かんだ。あっという間に加速してくねくねしながら滑り落ちていくそれに、コニーが笑いながら歓声をあげる。つられて笑いながら、前にいるコニーを抱きしめた。



「うぶっ! なんだよ!」
「落ちそうだったから! ほら、バンザーイ!」
「バンザーイ!」



 素直なコニーはとてもいいと思います。
 長いようで短かったスライダーが終わり、浮き輪が着水する。すこしの衝撃のあと、回りすぎてくらくらする頭でプールに飛び込んだ。コニーが浮き輪のうえでにやにや笑いながら寝転ぶ。



「運んでくれたまえ。苦しゅうない」
「ははーっ、ありがたき幸せ」



 次の人が落ちてくる前に、浮き輪を押しながらその場を離れる。近くにいた浮き輪を回収する係の人に渡すと、コニーが預けていたイルカを取りにいってくれた。
 プール独特のにおいに包まれながら、ぼんやりと水に浮かぶ。そういえばコニーとプールに行くと言ったら、ジャンが涙目になりながら「お前ら恋人らしくねえんだよ! ばか!」と怒ってたなあ。コニーと付き合ってることは秘密にしていたわけじゃないけど、付き合うまえと付き合ったあとがあまりに変わらなくて、誰も気付かなかった。コニーにだけは先を越されないと思っていたらしいジャンの落ち込みっぷりときたらもう、マルコでも慰めきれなかったくらいだ。



「おーい名前! おまたせ、次はどこ行く?」
「おかえりー。うーん、そうだなあ。ここはやっぱり」
「「ウォータースライダー!」」



 些細なことで笑いあうのは青春の特権である。コニーとひとしきり笑ってから、次のウォータースライダーに挑戦すべくプールサイドを走る。走らないでくださーい、という係の人の声に足を止めて、また笑った。



・・・



 お昼に焼きそばとかき氷を食べて、プールサイドのベンチに並んで腰を下ろした。焼きそばといえば夏というイメージがあるけど、ここは女の子らしくオムライスとか食べておけばよかったかもしれない。でももういまさらだし、焼きそばを食べることはコニーと意見が一致したので、本当にいまさらすぎる些細な悩みだ。
 コニーはお腹をさすりながら、はっとしたように私を見た。



「しまった! 恋人らしいことしろって言われてたのに忘れてた!」
「プールに来てる時点で恋人らしいんじゃない?」
「んー……それもそっか」



 コニーは単純である。あっさり納得したコニーは、次になにをするか楽しそうに話しだした。コニーと私は友達のときとあまり変わらないけど、たしかに恋人同士なのだ。
 立ち上がってコニーの手を握って、プールへ向かって走り出す。また係の人に注意されて、早足でプールに飛び込んだ。



「おわっ! なんだよ!」
「いいから、潜って」



 昼時だからか、プールに入っている人は少ない。コニーは競争だと思ったのか、思いきり息を吸い込んでプールに頭をつけた。そのあとを追って、ゆらゆら揺れる水のなかで向き合う。コニーの大きな目がしぱしぱと瞬いて、ゴーグルを探した。残念、ゴーグルはそもそも持ってきていない。
 コニーの手を掴んで引き寄せて、酸素をつめこんだ口にキスをする。驚いたコニーは何かを言おうと口を開いて思いきり水を吸い込んで、咳き込みながら顔を出した。



「いっ、いきなり何すんだよ!」
「恋人らしいこと」
「そうだけどよ……」
「ねえコニー、次はなにしよっか。やっぱり」
「「ウォータースライダー!」」



 顔を見合わせて笑って、水をかけあってからプールサイドへとあがる。じつに私たちらしい夏は、まだ始まったばかり。


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