熱帯夜。夜間の最低気温が摂氏25度以上のこと。気象庁より。

 動いていないのに、じっとりと汗が浮かんでくる。髪がうっとうしくて坊主にしたいけど、四季のうちのひとつを快適にすごすために取り返しのつかないことをするのはいただけない。まだ思いとどまる程度の理性はあるらしいと、ゆだった頭で寝返りをうった。いくら寝る場所を変えようと、暑いものは暑い。扇風機しかないこの部屋は、まるでサウナのようだ。
 いちばん風を強くしているのに、一向に涼しくならない。原因はひとつ、大きな体で猫のように丸くなってひっついてくるベルトルトのせいだ。



「ベルトルト。暑い」
「暑いね」



 体が大きいだけで暑苦しいのに、さらにくっつかないでほしい。暑いと言いながら汗をかいていないベルトルトは、体温が低いんじゃないかと思う。そう思って体にさわってみると私より体温が高いので、たぶんベルトルトには発汗機能がない。そう思わないと、体温が低いのに汗まみれの私と、体温が高いのに汗をかいていないベルトルトの説明ができないもの。



「離れてって言ってるんだけど」
「やだ。名前の横がいい」



 背が高いということは、手足も長いということだ。絡みつくように体を拘束されて、逃げるのを諦めた。動くとさらに暑くなる。
 ベルトルトいわく、体温が低い私にくっつくと冷たくて気持ちいいんだそうだ。いくら冷たくてもくっつくとすぐに熱があがってしまうのに、ベルトルトは気持ちよさそうにくっつくことをやめはしない。
 諦めてためいきをついて、私の肩あたりに頭をすり寄せてくる恋人の頭をなでる。こうして諦めとともに受け入れてしまうのもいつものことだ。



「気持ちいい。名前はなでるのが上手だね」
「誰かさんで練習したからね」



 さらさらとした細めの黒髪を、やさしくゆっくりと撫でる。気持ちよさそうに目を細めるベルトルトは、外で見る彼とは違うように見えた。

 ベルトルトはこの家を一歩でると、引っ込み思案でライナーの言うことを第一とする、おとなしい青少年に変身する。背が高いくせに人の後ろにいるのがやけに似合うベルトルトは、おだやかに微笑むのがよく似合った。ついでに本や眼鏡も。
 この家に帰ってくると、優等生の肩書きは、靴と一緒にきちんと揃えて玄関に置かれる。遠慮なく甘えてくるし、可愛らしいわがままも言うし、たまに拗ねる。すべてがまだ可愛い範疇でおさまっているのは、やはり根が優しい人だからだと思う。拗ねたあとに「ごめんね」と謝ってくる顔も、わがままを言ったあとに「嫌いになった?」と上目遣いで聞いてくる癖も、どこか可愛らしい。192センチもあるのに上目遣いが似合うとは、これいかに。



「名前、もっと」
「はいはい、仰せの通りに」



 頭をなでて、背中をなでて、耳をくすぐる。くすぐったいよ、と笑う顔が愛しくてキスをすると、また笑う。もう暑いのは気にならなくなってきた。慣れてきたとも言える。
 お返しとばかりに、今度はベルトルトが頭をなでてくれるのに目を閉じた。こうしてなでてもらうと、やっぱり気持ちがいい。



「名前、顔をあげて」
「ん?」



 言われたとおりに顔をあげると、ベルトルトの顔が近くにあった。目を閉じてキスを待つと、ふにゅっとやわらかい感触がする。お互い、ずいぶんとキスがうまくなったものだ。
 ふんわりと笑うベルトルトは、何も言わずもう一度キスをしてきた。ちゅっちゅ、と間をおかずに何度もされるキスの合間に、なんとか息を吸う。私の頭をなでていた手はいつのまにかあごに置かれていて、逃がさないというように顔を固定される。手が絡みついて、長い足が私の足のあいだに入った。阻止しようとしてももう遅い。



「ね、名前。もっと熱くなることをしよう?」
「もうじゅうぶん暑いのに」
「大丈夫。名前のなか以上に熱いところなんてないよ」



 とりあえず一発殴ってもいいと思う。ごんっと頭に直撃した拳に、ベルトルトはいたがる素振りを見せながらキスをしてきた。どうやら諦めてくれる気はないらしい。暑いのに、とつぶやいた声は、口のなかを荒らすベルトルトの舌に吸い取られた。


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