まだ日は落ちていないというのに、あたりには熱気が漂っていた。人も多く、みんなはぐれないようにしながら歩いている。じんわりと汗がにじむのを扇子で仰ぎながら、待ち合わせ場所へと急いだ。遅れたらユミルのタイキックだ。



「ごめん、お待たせ!」
「遅いぞ名前。あと数分遅れたらタイキックだったのに、残念だったな」
「だから急いで来たの。忘れ物を取りに戻ってて」



 黒地に白が映える浴衣を着たユミルが、残念そうに時計を見る。それをなだめるクリスタは、淡いピンクのかわいい浴衣を着ていた。たぶんユミルの見立てだろう。ツンデレなユミルは、クリスタが浴衣を着たらかわいすぎるという理由からこの企画を反対していたが、最終的には誰よりも真剣に浴衣を選んでいた。クリスタの。
 ピンクの浴衣が似合ってとてもかわいいと褒めると、クリスタは名前もかわいいと言ってくれた。クリスタはやっぱり天使だ。



「ねえ、花火ってまだ先だよね?」



 ミーナがポスターを見ながら、ようやく日が落ちた花火会場を見回した。オレンジに白い帯をあわせたミーナは、いつもより女の子らしく元気に見える。早くも屋台を回ろうとしているサシャを捕まえながら、まずはどこに行くか相談してきたミーナを、サシャはすこしは見習ってほしい。
 淡い黄色の浴衣を着たサシャはよだれをたらしながら、なにを食べようかひとりでぶつぶつとつぶやいている。もう一人で楽しませたほうがいいんじゃないだろうか。



「サシャ、とりあえずミカサが来るまで……あ、ミカサ!」



 横でユミルが舌打ちをした。どうやらぎりぎり時間に間に合ったらしい。
 紺色の涼しげな浴衣にもマフラーを手放さない、それがミカサだけの上級テクニック。ミカサの姿を見て、アニがふんっと鼻をならした。淡い藍色の浴衣に綺麗な金髪が似合っているアニは、ミカサに時間ぎりぎりだと嫌味にも聞こえる真実を言う。ミカサは気にせず、そう、とだけ返した。このばらばら具合が私たちらしいけど、とりあえずはどうするか決めないとここから動けない。



「これからどうする? 浴衣で集まるって目的は達したけど」
「もちろん屋台制覇です! 焼きそばはいろんな味があるしかき氷やフランクフルト、ああっお好み焼きまで!」
「サシャは放っておいて。女子だけで集まるって話だったし、適当にぶらぶらすればいいんじゃねえの?」



 ユミルの言葉にミカサが頷く。ミカサはこの女子だけの花火大会には参加しないと言っていたけど、エレンの「言ってこいよ」の一言で参加することになった。エレンはすこし、ミカサへの影響力を知ったほうがいい。



「じゃあ、みんなで回ろうか。サシャは放っておいて」



 ミーナも意外と辛口である。今までサシャを掴んでいた手を離すと、お腹をすかせていたであろう獣は一目散に屋台へと駆け寄ってしまった。それを見て、目的もなくぶらぶらと歩き始める。
 しかし、こんなにかわいい子に囲まれていると、自分のお粗末さが目立ってしまう。とぼとぼと歩いていると、ユミルがにやにやしながら近付いてきた。がっしりと肩に腕がまわされる。



「で? 名前はこんな企画に参加してよかったのか?」
「なんで?」
「誰かさんといい雰囲気なんだろ?」



 ぼっと顔が赤くなる。確かに最近よく話すけど、片思いをしてるけど、いい雰囲気ではないと思う。この花火大会にも誘われなかったし、夏休みなのに遊ぼうって言われてないし。



「そ、そんなんじゃないよ。それに、恋人がいたって友達と遊びに来るのは当然だし」
「その台詞、ハンナに聞かせてやって」



 アニが涼しげな声で言い放つ。早いうちから恋人ができてしまったハンナは、今日のお誘いを悪びれた様子もなく断ってきた。なんでもフランツとデートだそうだ。羨ましいとか、そんなの思ってない。全然。
 何か食べようかと屋台を見ていると、ミカサが機敏な動きで振り返った。釣られて振り返るが、とくに何もない。



「エレン!」



 ミカサが走っていってしばらくして、人ごみのなかからいつものメンバーが現れた。うしろにはリヴァイ先輩やハンジ先輩といった面々も揃っている。ミカサの嗅覚……いや聴覚? まあなんでもいいが、エレンに関するそれらは目を見張るものがある。
 慌てて髪が乱れていないか確認して、浴衣の裾をなおして、どきどきしながら恋する相手の前に立つ。ユミルとアニが面白そうに笑った。



「あ、あの、こんなところで会うなんて、奇遇だけど、それほど奇遇すぎるわけでもなく……あの」



 緊張しすぎて変なことを言ってしまった。恥ずかしくて俯くが、返ってきた言葉は予想外なものだった。遠回しに似合ってると言われて目を見開く。見上げた私の目に映ったのはすこし緊張している想い人の顔で、つられてじわじわと赤面していく。
 神さま、できたらどうか、来年はハンナとフランツを責められない立場になっていますように。


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