GWは、じゃがいもの選別とその他もろもろのことを必死にこなしていって、すぐに終わってしまった。何のために何をしているかも微妙にわからないまま、ただひたすら一生懸命だった気がする。
GWが終わったときに「またおいで」と言ってくれたのは純粋に嬉しかった。もっといろいろ出来るようになってまた来たい。そう思えたGWだった。



「で?西川となにもなかったわけ?」
「たくさんあったよ。じゃがいものこととか畑のこととか、色々教えてもらってすごく勉強になった」
「そうじゃなくて」



シノが頭を抱えた。恵ちゃんが苦笑いしながらクッキーを差し出してくれて、遠慮なくもらう。甘いものは貴重である。なにしろエゾノーは肉が主体で、スイーツなんて誰も作り出そうとしない。クッキーを食べながらなつめちゃんが首を振った。



「駄目よ、名前ちゃんにははっきりきっぱりダメ押しするくらいの強さでいかないと」
「だよねえ」
「あ、あとね、西川が機械でごごごごーってじゃがいも掘っててかっこよかった!やっぱりあれくらい出来ないと駄目だよね。もっと機械に慣れないと」



クラスメイトもみんな扱いがうまいから、早く私もあれくらい扱えるようになりたい。うんうんと頷くと、恵ちゃんが笑いながらずり下がった眼鏡をあげた。からかうでもなく嫌味でもなく、ただ優しく包容するような声は、恵ちゃんにしか出せないものだ。



「今さっきから名前ちゃんが西川くんの話しかしてないの、なんでだと思う?」
「なんでって……ずっと西川の家にいたんだから、そうなるんじゃないの?」
「西川くんの家族もいたでしょ?それでも西川くんの話をするのって、そういうことなんじゃないかな」
「どういうこと?」
「人はそれに名前をつけて呼ぶんだよ」



なぞなぞのような問いかけに首をひねるも、答えが出てくる気配はない。人が人に対する思いにつける名前。それはたくさんあって、どれを選ぶのが一番正しいのか、深く考えたことのない私にとっては深すぎる問題だ。



「西川って優しいし、助けてくれるし、そういえば結局ゲームのお金受け取ってもらえなかったし……うーん、お人好し?」
「誰にでも優しいわけじゃないと思うけど」



どこかで聞いた台詞に、メロンが思い浮かんだ。メロン食べたい。
クッキーに手を伸ばしかけたなつめちゃんが、はっとして時計を見る。いけない、もうお風呂に入る時間だ。一番最初に入るなつめちゃんが慌てて立ち上がって部屋を出ていく。



「いってくるね!」
「いってらっしゃーい」



15分後には私、30分後にはシノと恵ちゃんが入る番だ。荷物を整理しながら、お風呂に持っていくものを用意する。西川に対する気持ちは友情とはすこし違う気がするけど、なんだろう。



・・・



久しぶりに感じる寮のお風呂は、やっぱり入浴時間が短かった。適当に乾かした髪はさわるとまだ湿っていて、ふるふると頭を振る。遠心力で乾けばいいのに。



「おー、名字も風呂上りか」
「西川も?寮のお風呂もいいもんだね」
「短いけどな」
「そう言いながら、家でのお風呂も短かったじゃん」
「癖だよ」



ベンチに座って牛乳を飲む西川の横に座る。しばらく西川の家にいたせいか、お風呂上がりに西川がいないと変な感じがする。じっと横顔を見つめて、水分を飲み込むたびに動くのどを見つめた。こうして見てみると、思ったより背が高い。いつもそんなに姿勢をよくしているわけじゃないから、高いようには感じなかった。



「なんだよ、じろじろ見て」
「感情に名前をつけてるとこ。んー……メロンとか」
「髪きちんと乾かせよ。風邪ひくぞ」
「うん」



適当にタオルで水分を拭き取って、また感情に名前をつける作業に戻る。見かねた西川が頭をふいてくれるのに身を任せた。家畜になったような気分になって、ふわふわする頭で笑う。



「西川って牛にも優しいもんね」
「名字は牛か」
「うん。エゾノーブランド」
「200万で売れるぞ」
「やった」



気持ちよくて、だんだんと眠くなってくる。かくんかくんと動く頭がだんだんと西川のほうへ傾いていく。あー駄目だ、眠い。これから学習時間があるのに、寝てしまいそうだ。とくに数学なんて、ただの子守唄にしかならないもんな……。



「おーい名前!……あれ?寝てる?」
「柿本か、どうにかしてくれ」
「名前ちゃん、熟睡してるね」
「……西川ってさあ、もしかして生殺し状態?」
「こんな感じで俺の布団によりかかって寝てたりしてな。俺はもっと褒められてもいいと思う」
「西川……!あんたになら名前を任せられるよ!」
「おー。だからこれ何とかしてくれ」



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