西川の部屋は、ポスターやらフィギュアやら漫画やらでいっぱいだった。おっぱいの大きな女の子が、服をはだけながら恥ずかしそうな視線で誘っている。うむ、これはポスターを買いたくなる気持ちもわかる。



「疲れただろ。大丈夫か?」
「うん。全然力になれてないから申し訳ないけど……一生懸命するね」
「おう」



クッションを渡されて床に座る。西川はベッドに腰かけて、窓の外を見た。まわりに何もないから、鳥や虫の鳴き声がよく聞こえた。体中が筋肉痛で、一日中いもをいじっていた利き手は動かすのも億劫だ。



「西川、私の話聞いてくれる?」
「おう」
「お父さんがある日突然会社をクビになったの。でもそれを隠して、借金して給料を持ってきたように見せかけてたんだ。お父さんって頭悪くないのにちょっとおバカで抜けてて……私見てたらわかると思うけど」
「父親似か」
「たぶんね。お母さんもしばらく気付かなくて、発覚したときには借金が膨れ上がっててさあ……お父さんも悪いけど、気づかなかった私たちも悪いと思うんだ。お父さんはずっとサインを出し続けてたから」



もう帰れない家で団欒していた私たち。もう何年も前のような光景は、どんなに願っても返ってこないかと思うと、じんわりと涙がでてくる。クッションを抱きしめると、西川のにおいがした。



「お父さんはお金を稼いでくるって書き置きしてどこかに行っちゃって……お父さんお馬鹿だから、マグロ釣りに行ったりしてそうで」
「……ああ」
「私見ながら納得するのやめてくれる?」
「じいちゃんとかいないのか」
「いるけど、いま2人で外国を旅行中なの。お母さんの両親はもういないし。一ヶ月後に帰ってくる予定だから、そのときに話してみるって言ってた」
「300万か」
「うん。お兄ちゃんはいま大学四年生で、就職決まったからなんとか返せそうだって。いまもバイトたくさんしてるのに、私だけ何もせずに……」
「いまどき中卒じゃどこも雇ってくれんぞ」
「……うん。お母さんも、そう言ってた」



それでも自分だけなにもしていないという焦燥からは逃れられない。でもエゾノーじゃバイトも出来ない。けれど、それを選んだのは私だ。自分が、自分で選んだ道だ。



「おばさんやおじさんにも伝えておいて。借金持ちの子が家にいるの、嫌かもしれないし」
「んなことあるわけねえだろ」
「……西川って、優しいよね」
「誰にでも優しいわけじゃねえべ」
「野菜にも優しいもんね」
「そうじゃなくて」
「あと牛とか鶏とか」
「……名字はメロンだな」
「高級だね」
「手間暇かけても枯れるあたりが」
「嫌味か」



西川の声には野菜に向けるような優しさがつまっていて、なんだかふっと心が軽くなった。育ったら高値で売れるっていう意味だと思っておこう。
ベッドに座ったままの西川を、クッションを抱えたままそうっと見る。思ったより早く目が合って、なんだか恥ずかしくなってクッションに顔をうずめる。それからそろっと顔をだして、まだこっちを見たままの西川にお礼を言った。



「ありがとう、西川」
「礼を言われるようなことはしてないぞ」
「それでも、ありがと」



ああ、なんだかほっとする。体の力が抜けたとたん、睡魔が襲ってきた。疲れた体は睡眠を欲しているけど、お風呂に入らずに寝るのは避けたい。でも眠い。
うとうととする私を見て、西川が手を差し出してくる。それを握ってなんとか立ち上がって、手を引かれるまま与えられた部屋へと向かった。



「名前ちゃん、お風呂わいたわ、よ……あらごめんなさい、おじゃましちゃって」
「あ、ありがとうございます」
「いまフラグ折れたぞ」
「よそ様の大事なお嬢さんをお預かりしてるんだから、手ぇだすんじゃないわよ」
「やだなあ、西川が私なんかに手を出すわけないじゃないですか」



大真面目なおばさんがおかしくて、くすくすと笑う。ちょうど居間の横の廊下を通っていたから、すこし離れたところでおじさんやおじいちゃんがくつろいでいるのが見えた。おばあちゃんはお茶を淹れている。



「西川くん、すごく優しいんです。もう何度も助けられたし、いろいろしてもらって。きっとすごくいいお嫁さんがきてくれますよ」
「そうかしら?」
「はい。私には、とにかく嫁がほしいって人しか寄ってきませんもん。あの人目が怖くて……GWに来いって言われたんですけど、既成事実作られそうな勢いで。そこでも西川が助けてくれたんです。ね、西川」
「人手がたんなかっただけだ」
「そっか」



西川にも随分と慣れてきた気がする。にこにこしながらぶっきらぼうに聞こえる言葉に頷くと、ふいっと顔を背けられた。耳がほんのり赤い。つまんでみたいけど、ここは我慢だ。にやにやしながら西川を見ていると、頭を小突かれた。痛くない。



「さっさと風呂入れ。明日も早いぞ」
「はあい。お風呂はいらせてもらいますね」
「はい、どうぞどうぞ」



着替えを持ってお風呂場の場所を聞く。早くあがって早く寝て、明日はもっと早くじゃがいもを選別できるように頑張るぞー!



「……ねえ一、名前ちゃんと本当に付き合ってないの?」
「付き合ってねえ。フラグぼっきぼきに折られてるとこ」
「頑張るのよ!すごくいい子じゃない!」
「おー」



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