泥酔ギャザラー24時///

「…覚えてるところから整理しよう」
「そうですね……」

 互いに背を向ける形でベットサイドに座る男が二人。頭に手を当ててうなだれるように話す二人はかろうじて発見したパンツこそ履いたが、それ以外は何も身に付けていなかった。つまるところ、朝起きると全裸で仲良くベッドインしていたのである。

 ちなみに仲良くベッドインしていたが、先に目を覚ましたのはウェザーだった。というのも、寝返りをうったところ隣でぐーすかと寝ているルディの角やら鱗やらがうっかり刺さるなどして痛かったからである。
 目が覚めてからウェザーも数秒は「あー、なるほど鱗かいまの…」と納得していたが、むくりと起き上がり布団がめくれた拍子にはおもわず悲鳴をあげた。

 履いてねぇ!

 その悲鳴を聞いてようやく、ぐっすり寝つつも布団の隙間から風が入り込んで寒かったのか近くの熱源であるウェザーにくっつき始めてたルディも目を覚ましたのだ。

 同じベッドで寝ること自体は珍しいことではない。職業柄、遠征任務に共につき、宿が一つしかとれなかったなど全くないわけではない。だが、目が覚めると二人して全裸ということはなかった。

「どっちなんだ…!?」
「なにかやらかしたのか!?」

 と、お互いに顔を青くして昨夜のことを考えるも、何一つ思い出せない。ゆえに、わかることから確認をしようと座り込んだところであった。

「って、なんすかこの酒の量…」
「飲んだんだろ…俺たちが…」

 キョロキョロと回りを見渡すウェザーの目に写るのは空瓶、空瓶、空瓶、空瓶、そして空瓶。どれもボトルには酒が入っていたことをしめすラベルや札が添えられている。足元にはそんな空瓶がごろごろと散らかされており… それ以外に、床にはところどころにぬちゃりとした粘液質の液体が巻き散らかされていた。

 こ、これは。と思いながら指先で粘液に触れてみる。予想のものとは違うように、と思いながらふれると思いの外さらりとした… 黒い液体であることがわかる。指先が、真っ黒になった。思いもよらず、思わず「は?」と声が出てしまい、その声が聞こえたルディが振り返った。

「…どうした?」
「いや、これ…」
「黒…いな…?」

 果たして昨夜、何が?
 さらに深まる謎に首をかしげたとき、指先の黒い液体から香る匂いにウェザーははっとした。そして、確信を得たのは、空き瓶の影に落ちている皿と竹串を見つけたときだった。

「…イカスミ…」
「……イカスミ…?」

 なんで?

 二人の心の声が見事に重なった瞬間であった。

「あー…ウェザー。聞いておくが、それがイカスミだとしてだな」
「はい」
「イカはどこから? 釣ってあったのか?」
「いえ、最近は海釣りはしてないので、ましてやこんな新鮮なイカスミが出るようなイカは最近獲ってないですよ…?」
「…じゃあ、イカは…」

 どこから来たんだ、とそこまで言いかけてルディがふと、キャビネットの上からなにかをとった。朝日を受けてきらりと煌めいたのは、使用した形跡のある包丁であった。

「ルディさん包丁なんか寝床に置く趣味あります?」
「あるわけないだろ。…キャビネットの上で捌いた形跡があるんだが」
「えっ!?」

 のそのそとベッドの上を這いながらウェザーがキャビネットの上を覗きこむ。たしかに、空き瓶もなく綺麗にみえたキャビネットの上には透明なイカの骨がある。そして二人は気がついた。いや、イカの骨だけではないな、と。

「…この鱗、骨…」
「他にもここで捌いて食ってるなオレたち」
「あっ!?キャビネットのなかに醤油瓶あった!?」
「は?…まてキャビネットの中身どこに捨てたんだ俺は…」

 ごとごととキャビネットとベッドのまわりを見始め、いくつかの痕跡を発掘しながら、二人の顔は次第に暗くなっていく。

「…嫌な予感がしてきたんだが」
「奇遇ですね」

 泥酔して一晩の過ちをおかした、というのならまだましな気がしてきた。というか、もはや二人の間だけで多少腰やケツがいたい程度済むのならばもはや些末なことな気さえもしてきた。

 二人の目下の心配は、自分達はなにをどこまでしに行ったのかが全くわからないという点であった。

 幸いなことに醤油瓶がしまわれていたキャビネットの棚からはズボンが発見されていた。二人はぐしゃぐしゃに突っ込まれていたズボンを素早く、そして大袈裟に高く掲げ、エオルゼア十二神に感謝をしながらズボンに足を通していた。

「…ルディさん」
「…次はなんだ」

 足を通した。いや、ルディはさっさとズボンを履いたのだが、ウェザーは片足をズボンにいれて中腰のまま硬直している。ぎこちなく、苦虫を噛み潰したかのような顔を向けるウェザーのズボンをみて、察した。

「…そのまま水にはいったのか…」
「裾がびちょびちょ…」

 顔を手で被い、二人はもう一度「神よ…」と嘆きの声をあげたのであった。


* * *


 やむをえず、ウェザーはルディの服を着ることになった。さすがに自室まで移動するにも一度外を通るのだから、ズボンは履いておいた方が無難だろうという判断だった。
 モスグリーンのセーターも種族の違いからサイズが大分違っている。袖が多少余ってしまうセーターをまくりあげて、ウェザーは自分の持ち物を確認していた。ちなみに、ざっと確認しただけで海釣り用の餌がごっそりと減っていたことと、持ち物に魚が大量に増えていることが確認できていた。

「ルディさんの方は?」
「記憶にない食材がかなり増えてるな… スパイスショップでもやるのかという量のハーブがあるが… ふむ… なにか作っては食ってたらしいな」
「お腹すかないしな…」

 あれがない、これがない、というだけならまだしも、二人のバッグはたった一晩でずっしりとした重さになっているのである。空き瓶を片付けた床に広げながらうんうんと首を捻っていると、ふはっとルディの吹き出す声が聞こえる。

「ポケットのなかから貝殻が出てきた」
「貝殻!?」
「真珠混じってるんだが」
「記憶にない…」

 海岸沿いにいたことは間違いないな、と言いながらルディがポケットを漁りながらざらざらと音をたてながら貝殻や珊瑚を適当な袋に入れていく。
 深夜に、男二人で海岸で方や釣りをして方や貝殻やらを集めていたというのか。ルディはその光景を想像するだけでもあまりにも不審で、今一度笑ってしまった。

 ちなみに、実際の様子はさらに愉快なものであったことをここに記しておく。


* * *

くぎり。

mae//tugi
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