料理してる話///

 キッチンから食欲をそそる香りが漂ってくる。軽快な包丁の音に混じって、小さく鼻歌が聞こえていた。

「ルディさんって」
「ん?」
「料理する時とか、作業をするときとか、たまに歌ってますよね」

 今日の調理担当はルディことリューディガーで、そんな彼に声をかけたのは同じフリーカンパニーに所属するウェザーである。カウンターのすぐそばにあるダイニングテーブルから、キッチンに立って調理を続けるルディになにとなしに声をかけた。それまでよどみなく動いていたルディが手を止め、「そうか?」と首をかしげながら問い返した。

「言われてみれば…… たまに聞こえるな」
「…… 確かに…… 今も歌っていたな。すまん、うるさかったか?」
「あっ、いえ、そういうわけじゃなくて」
「何の歌なんですか? 聞き覚えがある感じだったので気になっちゃって」

 ウェザーの隣に座っていたテオドロがウェザーに同意し、ルディはどことなく申し訳なさそうに眉を垂らした。あわあわと両手を振りながら不快だったわけではないと答えるウェザーをよそに、彼らをきょろきょろと見ながらそわそわとした様子だったザンセツが口を開いた。

「そう! 聞き覚えがあるからなんだろうと思ったんだ」
「戦闘中に、たまに弾いてるやつですよね?」
「あぁ、さっきのは旅神のメヌエットだな」

 答えながら、ルディが小さく鼻歌で同じメロディを歌う。聞いていた面々が「それ!」とうなずき謎が解けたのか、どこかすっきりとした顔をしたのちに頷いた。

「そういえばルディさん、普段は吟遊詩人もやってましたもんね」
「……歌が得意なわけではないんだがな。別に俺は謳わなくてもいい気持ちもあるんだが… 生憎、弓の師がな…」

 吟遊詩人だったから、とぼそと答える声が聞こえた。

「そういう癖みたいなの、お前らもあるだろ?」
「癖ですか。んー、つい武器の間合いが槍を基準にしちゃったりとか?」
「あー、魔法使うからつい距離とっちゃうとか… とりあえずエアロいれようとしちゃうとか」
「つい、前に出てしまう、とか…」
「それみたいなもんだな。まぁ、君たちのは戦闘中のうっかりみたいだが」

 かちり。音がして、コンロの火が止められる。4つの容器に出来上がったらしい料理が盛り付けられ、「さて、できたぞ」と声がかけられた。

「わーい!」
「いただきます!」

 出来上がりを待っていた三人へ、カウンター越しに皿をわたす。受け取った者からいそいそと椅子に座り、どこかそわそわとした様子で皆が揃うのを待つ。ザンセツが最初に受け取り、ウェザーが受け取り、テオドロが受け取り、最後にルディが席についた。

「いただきます!」

 もう一度ザンセツが声に出し、両手を合わせたのに「どうぞ」とルディが答え、各々が食べ始めた。食事中の話題はいましばらく各々の癖の話が続くようだった。

mae//tugi
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