たえて しのぐは なかなかに。///

みちり、と嫌な音がした。
腕からぬるいものが噴き出した。ごぎゃっ。ごり、ばぎ。骨が捻れて、伸びた繊維が引きちぎられる。ぶぢっ。太い糸が引きずり出されて、伸ばされて伸ばされて切れるような音と、微かな痛みが体を走った。びくりと違和感のような痛みに背筋が震えたが、そのまま、走り抜けた。だらりと垂れ下がった腕は だったもののはその自重に耐え切れず落ちていった。
鼓動と共に噴き出す血を止めなければ、早く死ぬだろう。死ぬわけには行かないのだ。立ち止まるわけにも。直ぐに、体を、腕を構成する粒子として止まっていた微かな欠片を引き寄せる。魚の姿をしたそれは、あっという間に腕のあった肩口にまとわりついて、強引に血を押しとどめた。それでも、溢れ出るばかりの血を体に戻そうと不器用に管を作り、不純物を山ほど取り込んでしまったゴミのような液体を再び体内に戻した。
「まだ、やるのかっ」
「 や、 るさ」
ひゅぅひゅうと喉から空気が漏れる。繋ぎとめてるのは、やはり、腕の傷を塞いだ魚の幻影に過ぎない。そうとも。同種の力を持たなければ見ることも叶わない、不可視の幻影に過ぎないのだ。いまやズタボロの体のあちこちはそんな不確かなもので構成されている。倒れれば、その瞬間から崩壊するだろうほどに脆い。
それでも、立ち続けなければならなかった。
「君は、人だろう?なぜ、そうまでして…」
「な、ぜ?なぜ、なぜ、って、」
せり上がってきたものを吐き出す。足元に撒き散らされた血を見ても、そうか、内臓がどこかだめになったのだろうとぼやけた感想しか出てこない。どこがだめになったのやら。少しばかり反応の鈍い頭で、呼びかけに応えようと前を向いて、ふと、なんだったか、と思い出せなかった。
拳を構えてる男。赤い剣。冷気。電撃。目があう。不可思議な青く光り輝く幾何学の瞳。憐憫さえ含んだその目に写ってる姿はさぞや醜く足掻いてることだろう。乱れた髪や擦り切れた衣服のことなど気にならない。
「ま、 もる、 のは、 たまに、は… おれが、 や、 るんだ」
笑った拍子に痛む頭から流れた血が落ちた。焦燥と不審の目がいくつも向いているのを感じながら、なお妨げることをやめるわけにはいかなかった。
「だれにも、殺させや、しない」
それがたとえ、どんな相手だろうと。どんな理由や信念の相手だろうとも変わることはない。この場所で、立つ限り、だれにも通らせやしない。

血が落ちていく。嫌になる程ねむい。でも、まだ、寝たくなかった。
先輩は、まだ起きない。


「たいせつなものを、まもるのに、 りゆう、いる?」


強がりはまだまだ、これから。


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うっかり吸血鬼属性持ちのまま飛ばされた先輩が色んな要因でねむったまま起きてこない。
そんな先輩がもうすぐ起きそう!というところでてんやわんや。
先輩はおれがまもるもん!と気合入れて頑張るも、あくまで人間ないわしじゃ限界あるよねーなはなし。
腕が飛ぼうと足がもげようと首を落とされようとこの身を焼かれようとも。たえて。たえて。

mae//tugi
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