My real Rose Gold.///


 俺、いっつも先輩に助けられてばっかりなんだ。だから、たまには俺が先輩のこと、助けられたらなって、思ってたんだけど、さ。
 財団に先輩が目をつけられたのには薄々感づいていた。ただ、まぁだからといってどうすることもできないから表立って動くことも先輩に教えることもなかったけど。
 先輩のことだから、どうせまた無茶をするんだろうなって。たまには…先輩のお役立ち後輩として頑張ろうと思った、んだけど… あちゃあ、これはまたダメな気がする。ごめんね先輩、気合いれて帰るからそれだけは褒めてね!




 回復もおっつかない。そもそも俺の能力なんて、発動が鈍足もいいところなんだ。遅いのなんのって、文句を言い出したらキリがない。ずるずると壁に背を預けて座り込む。切れた首筋から血が流れ出てく。強引にケブラー・スイートハーツでつなぎ合わせて出血を抑えているとは言え、かっさばかれた傷の全てを感覚だけでキレイに塞ぐまでは至らなかった。せめて鏡でもあればな。作ればいいって?つくるまでに、死にかねないぜ、全く。

 足音が聞こえなかった。べつに、俺の耳が悪くなったという理由だけではなくて、ほんとうに、俺を今殺そうとしてる相手が極力足音を消して近づいてきていたからだ。しくったな、と思ったのは今になってからだ。死にかけてからしくった、などと遅いにも程があるのだが。

 眼鏡が割れたせいで傷ができて目が開けにくい。幸いなことにガラス片は全て取り除くことができたわけだけど、まぁ怪我は怪我なわけだし仕方がない。ぽたりと伝い落ちた血がシミを増やす。シャツも血まみれで、そもそも、胴体をぶちぬかれたせいで脇腹が熱い。この服はだめになったなどころの騒ぎではない。痛いと思わないことだけが唯一、現状で有利な点だった。

 思ってもいなかったのだ。ちょいちょいと忍び込んだ先で、まさか見つかるとは。油断大敵油断大敵、桑原桑原。いまさら反省会を開いたところでまさしく、後の祭りというわけ。さて、どうしようかな。本当。
 流石にこんなところでとっつかまったら先輩に迷惑以外の何になるんだっていう話で。ここでおっちんでも、これまた先輩に迷惑かけちゃう。先輩は、きっと、今頃俺のためにうんうん頭悩ませてるわけだから。帰ったらたぶん怒られちゃうんだろうなー 怪我がちゃんと全部ごまかせるようになるまでどっかで時間でも潰せればいいんだけど… 誤魔化しが効かないレベルだから、もうこれは諦めて怒られに行ったほうが早そうだな、うん。

 息を吸うたびにのどが焼ける。息を吐くたびに腹が軋む。見た目の割に重い一撃っていうやつ、こっちに来てから多くない? 不審者だったのは認めるけど、そんな初撃で殺しに来なくたっていいと思います。俺じゃなければとっくに死んでたよね。たぶん。二発目の頭んとこかすってったやつでさ。

 こちらに向けられている視線が敵視であることはわかっている。俺が手に持ってるデータ、よほどマズいやつ持ってきちゃったみたい。潜入の時にしてたステルス迷彩もとっくに溶けてるし、万が一に使ってた擬態も全部剥がれてる。耐久力がないというか、薄皮みたいなものだから仕方がないんだけどさ。っていうか怪我が酷くてそっちに回すしかなかったんだってば。

 銃口が向けられる。ほんとどうなってんだろうね、今の世の中。ばかすか人撃ち殺しすぎじゃないの、とおもいつつ相手をよく見る。

「俺のことをそれで、殺せると思ってる?」

 いや、ぶっちゃけ、殺せると思いますよそりゃ。俺だって、ケブラーちゃんのおかげで耐久はだいぶ高くなってるといっても人間ですからね?文明の殺戮利器・拳銃なんかばかすか撃たれて死なないわけないですからね?
 ただ、まぁ、かなり耐えてるしね。傷もごく一部ならもう治ったしね。ちょっと首と腹は傷がでかすぎてアレだけど。

「勝ったって、思ったろ」

 でも残念。今回の俺はちょっぴりしぶといんです。

「例えば、さ、おたくにとっての現実って、なぁに」

 現実。現実、現実。それを地獄と読んだほうが手っ取り早いことくらい誰だって知ってるだろう。天国を人が求めたのは、所詮、この世が地獄だからに過ぎないんだとそんなことは数世紀前からずっと言われてることじゃないか。
 現実。地獄。そこがどんな場所か、誰だってわかってるだろうに。

 でも、俺にとっての現実は遠い彼方の楽園のようなものになった。
 確かに、住んでいる間は地獄だった気がするけど、追放されて、やっと、知らしめられる。失ってから気がついたわけじゃない。あそこは確かに地獄だった。どこより退屈でなにより嫌いな場所だった。それでも、地獄に住んでいた獄卒どもにとっては故郷に過ぎないのと同じように、俺にとっては郷愁の念を抱かざるを得ない楽園の形に成り果ててしまったのである。

 なんのことかって。まぁ、つまり、俺にとっての現実とは、遠くに忘れてきた楽園の姿だったということでね。

 一匹、また一匹とケブラー・スイートハーツが影に消えていく。ゆらりと影に波紋を描きながら帰っていく朽ち果てた小魚の姿。骨だけで泳ぐ魚が姿を消していく。きっと彼には見えていないかもしれない。俺が使っていた能力の正体なんか、きっとわかってない。

「現実は遠い楽園になった、なんて馬鹿げてるって思うだろう。俺もそう思った。なんでかって、前までなら本気で、俺もそう思ってたからさ」

 現実はどこにある?
 答えを聞いてもわからないはずだろうに、誰もが俺に答えてくれる。ここがそうだと教えてくれる。その度に俺は首を振りたくなったけど、思考する自己を現実の拠り所とするのであればそれは確かにひとつの正解なのかもしれないな。

 でも、じゃあ、今はって?

「楽園はいつでもどこにも存在しなかった」

 Utopia。永遠にたどり着けない理想郷。どこにでも存在しながら、ゆえに、その姿はどこにもありはしないこの世すべての人の、望みの果。

「…俺はね、見つけたんだ」

 そこにいつの間にかたどり着いていたとしたら、どう思う。たどり着けない理想郷のはずだった。俺が出会うはずのない未知の世界。置いてきた現実とは確実に切り離された。俺がいる場所も全て脆い空想の、いうなれば夢のような場所だと信じきっていた。それでも、あの世界の片鱗が俺のもとには帰ってきたんだ。

 だからはっきり、いまならわかるよ。誰もが俺に答えてくれたあの意味が。ここが俺にとっての現実だと教えてくれる人がいた。帰る場所と、行く場所が。旅の果てにたどり着く場所が異なっていても構わないのだと。望みが全て同じである必要はないのだと。ずれて、足を踏み外すところだった俺のことを引き戻してくれた人がいるのだから、今ならわかってる。

 ちゃぷん。最後の一匹が消え去った。しんと静まる建物の中、絶体絶命にしか見えない俺が笑ったのをただの虚勢だと思うことだろう。

 ケブラー・スイートハーツ。
 甘い甘い、夢を見続ける俺の本性。その全てがつくりものだと知っていた俺の魂。ずっと知っていたとも。現実で作り上げられた、俺の恋人。
 誰よりも心強い夢のような存在。でも、あぁ、わかってるさ。

 今一度だけ、君を現実に還そう。
 我々が唯一の楽園へ帰るために。

 何が起きているのか、一つたりとも見えずともいい。俺たちの能力のことが微塵も見えなかろうと、構わない。
 それでも、これは見えているだろう?

「現実なら、それは俺の世界だ」

 ようこそ、君たちの現実世界。ようこそ、俺の”現実”へ。

 ざわりと影が揺らいだ。血で少し汚れているけど、揺れる金髪の色が変わっていく。見えているだろう。少し話をしようか。君も知ってる、ちょっとした怖い話を。例えば、そう、この部屋が暗闇に包まれた間に起きる、惨劇の話でも。







「ただいま〜」
「おか… ……イワシ、正座」


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この言葉の意味をわかるのは俺と先輩だけでいい。
俺の現実は、あんただけでいいよ。



ケブラー・スイートハーツ ザ・ワールド
…みたいなネタをぽんと思いついただけの話。

「現実世界にある物質の擬態あるいは模倣」という能力。
鍋つくったり身体のパーツ揃えたりするのが余裕のよっちゃんになる能力。
いわしにとっての「現実世界」という定義が、
われわれにとっての「リアル三次元」で基本固定なところがミソ。
よって、リアルに存在していないファンタジー物質などは基本的にムリ。

…と、いうのが表向き。
というか、いわしの基本制限であって、この定義がガバガバなのであった。
単純な話、「お前は今ここに生きてるだろ」という言葉を理解したとき、
いわしにとっての現実世界とは「自分が生きている世界」に変化する。
「ファンタジー世界にいる自分」が「現実」と認識さえできれば、
ファンタジー物質も余裕で作り出せる、という感じ。

が、彼が唯一「現実」と認めたものは先輩。
「先輩は現実の存在」と認めている。依存してるともいう。

結果、何ができるか。
ケブラーによる先輩とスカロボーフェアの「模倣」、であった。

さあ今一度現実に還そう。

「たとえどんな絵空事に思えても、それが俺の現実であるのなら、必ず叶う。真実は小説より奇なり。ここが俺の”世界”だ。」と。
だからやなんだこいつ…チートくさいから…

見つけたのは楽園でありそして現実そのもの。
もとから探してたのは現実だから。なんてね。

眠さマックスだったから深くは考えてないよハッハー!

mae//tugi
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