やくにたたないはなし///

 おねえちゃんと一緒に寝なくなって、さてもう何日が経っただろうか。

 いや、何日どころではない。すでに数ヶ月以上たったはずだ。ひぃ、ふぅ、みぃ…ええと。指折り数えても、やっぱり僕がはっきりとわかっている限りでも結構長い時間、僕はひとりで眠っている。

 おねえちゃんと同じベッドで寝るなんて、流石にこの歳にもなっておかしいのはわかってるつもりだ。
 だから、別々で眠るのは当然のはずだし、本当はこれでいいはずなんだ。そうに決まってる。

 おねえちゃんがどこに、誰と出かけたって僕には関係ないし。おねえちゃんがいつに出かけて行って、いつに帰ってきたとしたって、おねえちゃんの自由なんだから。

 それを僕が束縛していいはずはない。僕なんかが。おねえちゃんを。

 本当にそう思ってるのなら、本当は、本当は… 家を出るべきなんだっていうのもわかっているけれど。でも、そうもできないあたり、僕がどうしようもないやつだっていうこともわかっている。

 でも、やっぱり分かっていてもできないのは…… 単に僕がさみしいからだ。

 そりゃあ、もちろん。姉ちゃんのことが心配だっていうのもある。あんなことがあったあとだし、できれば僕だって姉ちゃんのためになにかしてあげたい。
 あわよくば僕が姉ちゃんを助けてあげられれば、なんて思ってもいる。

 上手くはいかないけれど。

 僕になんかできることがあるわけがないって、ずっとわかってた。僕みたいなのが姉ちゃんのためになにかしてあげれるわけもない。姉ちゃんのそばにいることくらいしかできなかったけれど、それすらもやってあげられない。

 姉ちゃんが帰ってこないのをただぼんやり待っているくらいしか僕にはできない。ねえちゃんに何かあったらすぐに家を飛び出すくらいしかできない。
 待ってたって何もできないけど。すぐに駆けつけたところで、じゃあ僕にできることなんて、きっとなんにもないだろうけど。
 それにほら、僕が何の役にも立たないなんて、ずーっと昔からわかってたことじゃないか。
 そんな僕に、一体何の権利があるっていうんだろう。まして、なんて言えばいいんだろう。言えるはずがないじゃないか。

 姉ちゃんがいない部屋は寒くって寒くって。姉ちゃんがいつも一緒だったベッドが広くって、落ち着かなくって眠れなくなっただなんて。

 言えるはずがないんだ。僕が我慢すればいいだけのことを、どうしたって、さ。

 帰ってきた姉ちゃんにおかえりと言えたときはどれだけ、どれだけ安心することか。
 姉ちゃんをぎゅっと抱きしめて、姉ちゃんが無事に帰ってきたんだとわかったときにはどれだけ安心することか。

 姉ちゃんに触れるのは未だにすこし怖くって。姉ちゃんにあまり無理をさせたくもなくって、滅多に僕が姉さんに触れることもなくなったけれど。だから、この時だけだけど。
 
「おねえちゃん、おやすみなさい」

 おねえちゃんにちゃんと、おかえりとおやすみを言いたいから。おねえちゃんの体温を少しだけ分けてもらいたいから。この時だけは、夜の冷たさをまとったままのおねえちゃんをぎゅっとして、出迎えて。
 それから僕は広くなったベッドに戻る。

 きっと今日も、僕は寝れないまま朝を迎えるんだろう。




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数日後、唐突に倒れるなどとは思いもよらずに。



mae//tugi
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