ふみんしょうのはなし///

 目を覚ますと見知らぬ白い天井。覚えているのは、たしか、リビングにいた、ということだけ。体を起こそうとして、右腕に重さを感じる。あれ、と思ってそっちをみたら、僕の右手をぎゅっと握ったまま寝ている姉ちゃんがそこにいた。

 カーテンが風にそよいでいる。外はさわさわと、やかましくない程度の穏やかな人々の声。部屋を見渡して、音もなく雫を落とし続けている点滴が見えた。その長い管の行く末は、僕の左腕。
 左腕に針が刺さっていることを感覚で確認して、ようやくここがどこかの病室であると理解した。

 相変わらず、体が重たくて動かせない。横になっているというのに、どことなく視界がぐらぐらと揺れて仕方がない。まだ母さんに頼まれてる仕事だって終わっていないし、他にも僕が抱えてる仕事なんていくらでもあるのに。

 そうは思っていても、意識が揺らいで揺らいで仕方がない。

 右手をぎゅっと強く握られる。ゆるく目線を向ければ、姉ちゃんが目を覚ましたところで。ちょうど目が合った。ぼくも姉ちゃんに握り返してあげたかったけど、どういうことなのか、さっぱりと手に力が入らなかった。

「もみじ、」

 なぁに、ねえちゃん。
 しんぱいしなくてもだいじょうぶだよ。ぼくは、うん、へいきだから。

 だいじょうぶだから、ねえちゃん、そんなかお、しないで。

 だいじょうぶ。ぼくはだいじょうぶ。ねえちゃんは、ねえちゃんのことだけ、しんぱいしてればいいからね。ぼくは、だって、だいじょうぶだから。



 ばか、と。いつもより揺らいだ声でおこられた、きがした。


mae//tugi
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