IN進撃パロ/


職場見学。至ってよくあることだろう。
特に、今後所属を考えねばならない訓練兵にとって、所属先の見学や説明といったのは人生を左右するといっても過言ではない。
憲兵団、駐屯兵団の見学を終え、残るのは調査兵団のみ。
今回の見学会兼説明会は班ごとではあるが全員が赴かねばならないといわれたことを思い出して、いま一度ため息をつく。
憲兵かダメなら駐屯くらいでぐだぐだと行く末でも見守るか、とやる気も何もなく思っていたのだ。所属先は正直どうでもいい、というのがイドルの本音だ。

「訓練兵24班です」

班のリーダーが案内をしてくれるらしい調査兵団の一人に声をかけているのをイドルは最後尾で眺めていた。
帰ったらジャンクでもいじり倒して、一度でいいから魔改造でもしてみようかとその技巧へ思いを馳せている途中のことだった。

「そういえば、リディアさんはどこの隊に」
「なんで調査兵団を選んだんですか」
「あそこにあるのは…」

案内役はリディアとかいう名前らしい。温和そうで、調査兵団には向いていないようにも思える女性だった。だが、背負っている紋は確かに自由の翼。まだ若いが、自分たちよりはやや年上。ということは、壁外調査に趣いても死なずに生き延びているということだ。恐れ入る。
そんな彼女に班員たちは次々と矢継ぎ早に質問を浴びせる。ゆっくりと丁寧に一つ一つ答えていくその姿はなかなか好印象だ。

「私はクロノス分隊長の班に所属してるのよ」
「クロノス分隊長…?ウォール・マリア奪還作戦で帰還したあの?」
「誰も素顔を知らないって噂の!」
「あ、私も聞きました。若くして分隊長にまでなったって!」

一歩後ろで兵舎を眺めながらぼんやりと会話を聞くだけだったイドルが会話しているリディアと班員立ちの方へと顔を向けた。
きゃっきゃと楽しそうに盛り上がっている自分以外の人間との温度差にやや困惑しながら、その耳を傾ける。

「えぇ、そう。そのクロノス分隊長。素顔を知らないっていうのは言い過ぎかもしれないわね。たしかにフードを被って顔を隠してることが多いけど…クロノス隊長、東洋顔なのよ。」
「東洋!?もう絶滅したって…」
「馬鹿、だから隠してるんだろ」
「東洋なんて神秘的ですね!」
「訓練兵として卒業してすぐにウォール・マリア奪還作戦に投入されて、生きて帰ってきた数少ない人なのよ。その時の活躍が評価されて、分隊長になった……あ」

リディアが突然足を止めた。
釣られて、リディアを見ればどこかを見ている。
班員たちもその方向へと顔を向けた。一拍遅れて、イドルもそちらへと視線を向けた。
モスグリーンのケープに、調査兵団の隊服。
羽織のフードを深くかぶっていてその顔を見ることはできないが、胸元に最近あまり見かけない十字架が光を反射させていた。
リディアが小さく分隊長…と呟く声が聞こえたかとおもうと、すぐにハッとしたようにこちらへと向き直る。

「噂をすればなんとやら、ね。」
「え、え」
「まさか」
「ふふ、あちらが我らがクロノス班の班長、クロノス・ナイア分隊長よ」

我ながら情けない話だが、その名前を聞いて心臓が妙にうるさく脈打った。
名前にどこか引っかかっていたが、こんな偶然があるだろうか。
いや、そもそも、この距離で流石にわからないはずもない。
顔が見えなかろうと、そんなことはさした問題ではないのだ。
班員があわあわとぎこちなく敬礼をしているのを横目に見て、クロノスと呼ばれた人物を見やる。
先程からぴくりとも動かずにこちらを見ているのは明白だった。
それに気がついたのか、リディアやほかの面々もくるりと背後にいたイドルへと訝しげに視線を移す。

「イドル、またなにか粗相でも…」
「隊長?さっきから一体…」

班員の顔が不安と憤りに染まっているのを無視し、一歩踏み出す。
おい、と静止を呼びかける声も手も軽く振り切って、一歩、さらにまた一歩。
こんなに近くにいたというのに気がつかないとは。
それだけ力が衰えたということだろうか、と内心舌打ち混じりに落胆する。
クロノスの目の前。
やや彼より身長の低い自分がちょうど顔をのぞき込める範囲。
そこでイドルはぴたりと足を止めた。

「クロノス・ナイア、だっけ」
「…えぇ」
「随分と趣味のいい名前だね」
「そうですか?」

イドル!と背後から咎めるような鋭い声が飛んでくる。
だがそんなものも無視して、彼は続ける。

「ハジメマシテ、クロノスたいちょ。訓練兵のイドル・デューですよ。」
「…えぇ、知ってますよ」

苦笑にもにた表情がクロノスの口元に浮かんだのを見て、イドルも口元を歪める。

「そんな名前、名乗るほど寂しかった?」
「ご冗談を」

直後、くつくつとイドルが楽しそうに笑い出す。
対するクロノスはといえば、やれやれといった様子で、背後に控えていた彼らが慌てて近づいて来る。
イドルが班員に後頭部を強打され、強制的に頭を下げさせられる。
あまりの状況についていけず、リディアはどうしたものかと困惑気味だ。

「すすすすすみません分隊長!こ、こいつ、失礼なやつで…!」

班員がイドルへ口々に文句を言い、クロノスへと謝罪の言葉を述べる。
頭を抑えられているイドルは不満げに文句を言い返してい真っ最中。

「…えぇ、それも知ってますよ。」

穏やかな声でクロノスはそういった。








別パターンの進撃世界での再開話

mae//tugi
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -